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二階の端の部屋に入れられたつむぎは、襖のそばにちょこんと座った。
「何か持ってくる」と言って出て行った正人は、まだ戻って来ていない。
ここは、どこだろう?
本当に明治時代なのかな?
つむぎは部屋を見渡した。
和箪笥と、小さな文机が置かれた簡素な部屋だ。箪笥の横には、茶色いトランクが置かれていた。
つむぎはトランクをよく見ようと近くに寄った。
将校……行李?
行李は研究室で見たものとそっくりだが、全体が茶色かった。手入れされた表面には目立った傷もなく、ベルトは二本とも揃っていた。何より、表面に「陸軍歩兵中尉 吉野慶一郎」と墨書で書かれている。
多分同じものだと思うんだけど。階級が違うからかな?
研究室の行李には、確か、「大尉」と書かれていたはずだ。
あれ?
机の上に本が置かれていることに気が付いたつむぎは、机に前足をかけて後ろ足で立ち上がり、机を覗き込んだ。
真新しいその本には、『明治三十七年 当用日記』と書かれていた。
明治三十七年……
そのまま前足を下ろして、座布団に座った。
窓にあたる部分は障子だった。風でガタガタと揺れている。ここにも窓ガラスはなさそうだ。
ふと見上げた天井には、電灯がなく、代わりに何かを吊るすような金属がぶら下がっていた。
これは、間違いなさそうね。
つむぎはゴクリと喉を鳴らした。
そっと、伺うように襖が開いた。床に正座をした正人が、大きな目をきょろきょろとさせていた。
もしかして、探してるのかな?
つむぎは、「ニャー」と鳴いた。
「あ。そこにいたのか」
正人が嬉しそうに目尻を下げた。
お盆と小鍋、新聞紙を部屋の中に入れ、最後に自分が入ると、襖を閉めた。
お盆には鰹節のかかったごはんと、水が入ったお椀が載っていた。ごはんからは湯気が上がり、鰹節がくるくると動いていた。
おいしそう。
つむぎは急にお腹が空いてきた。
正人は、新聞紙を敷いた上にご飯とお水を置いた。それから、部屋の隅に置かれていた火鉢を座布団の近くに運んで、小鍋から炭を移した。
「ごめんな。ちょっとここで待っててな」
ご飯を口いっぱいに含んだつむぎは、そのまま正人を見送った。
いつの間にか寝ていたつむぎは、階段を登るミシミシという足音で目が覚めた。
すっかり日が落ちて、部屋の中は真っ暗だった。
寒い。
つむぎはブルリと震えた。火鉢の中の炭は、全て灰になっていた。
猫だと、すぐに眠たくなっちゃうなぁ。
どうしてここにいるんだろうとか、何で猫?とか、考えないといけないことはたくさんあるのに。
つむぎはしょんぼりと耳を垂れた。
襖が開いた。
「……ほんっと毎年の事ながら、よくやるよなぁ」
「うちが本家だからな。正月に親戚が集まるのは仕方ないよ」
慶一郎と正人が持つランプが、あたりをぼんやりと照らした。
「おっ。ご飯、食べてるな」
慶一郎がお椀の近くに胡座をかいた。
正人はランプを文机の上に置いて、つむぎの頭を撫でた。
「うん。お腹すいてたみたいだよ」
「そうか……後で、もう少し食べるものを探してくるか」
顎に手を当てて、慶一郎が呟いた。
「正人、着替えてこいよ。父さんのところへ行こう」
慶一郎がランプを吊るした。ネジを回して、室内が見えるくらいの明るさにした。
「嫌だなぁ。父さん、寝ててくれないかなぁ」
眉をハの字に寄せた正人が、両手で掴むようにつむぎの背中を撫でた。
ちょっ、痛い。
つむぎは正人の手に、軽くパンチをした。
「明日に延びるだけだぞ」
「うん。わかった」
口を尖らせた正人は、つむぎに叩かれた手をさすりながら立ち上がった。




