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行李  作者: 長廻三月
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1-4

「先付け、あと三つ足りないわ」

「お銚子(ちょうし)はまだ?」


 何だか騒がしい。人の声と、あちらこちらから聞こえてくる、忙しない足音。

 ……醤油のいい香り。煮物かな?

 つむぎは、薄く目を開けた。


 木のテーブルで、着物に襷掛(たすきが)けをした女性が大根の皮を剥いていた。その隣でも、同じような格好をした女性が、ザクザクと菜っぱを切っている。

 つむぎが寝ていたのは、台所からの上がり口――式台だった。

 台所は土間になっていて、式台の一段上は水屋がある四畳ほどの居間だった。そこでは、女性たちが忙しそうに料理を盛り付けている。


 映画のセットかな?

 どうしてこんなところで寝てたんだろう?

 つむぎは大きく伸びをした。


 近くの七輪の上には鍋がかかっていた。女性が、そこから銚子を五本取ってお盆に乗せた。

「お銚子、持って行きますよ!」

 女性はそう言うと、つむぎが目に入らないのか、すぐそばを通って座敷の奥へ消えた。


「あっ! こら!! どこから入った!」

 え? もしかして、やっぱり私、まずいところにいたんじゃ……


 霞がかかったようにぼんやりとしたつむぎの頭が、一度に冴えた。

 小鉢に酢の物を盛り付けていた年嵩の女性が、目を吊り上げてこちらを見ていた。

 女性は全く目を逸らさずに、ゆっくりと立ち上がった。


「すみません!」

 そう叫ぶと、一目散に飛び出した。



 勝手口から外に出たつむぎは、振り返って中の様子をうかがった。

 台所からは、さっきと変わらず賑やかな音や声が聞こえていた。その中から、こちらにやって来る足音は聞こえない。


 良かった。追いかけられてはいないみたい。

 つむぎは大きく息を吸って、吐いた。

 息が白い。

 もう一度、息を吐いた。

 やっぱり白い。


 空を見上げた。

 青空……さっきまで雨が降っていたのに。


 つむぎは屋敷をぐるりと囲っている白壁の塀の外を見た。

 白い山肌が、木々の陰影をくっきりと浮かび上がらせている。木々はすっかり葉を落としていた。


 冬?

 えっ? 何で?

 六月だったよね?


 わけがわからず、つむぎは両手を頭に当てた。今までの感触とは違った、ふわっとしたものが手に触れた。


 何?

 つむぎは震える手のひらを見た。

 白い毛の中に、ピンク色をした肉球が埋まっていた。


「ニャーーーーーー!!!!!!」

 目を限界まで見開いたつむぎは、全身の毛を逆立てて地面を蹴った。


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