↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
行李  作者: 長廻三月
PR
16/21

3-3

 ヒック……ヒック……

 誰かがしゃくりあげるように泣いている。

 誰だろう?


「ほら、大丈夫だから」

 慶一郎の声がする。それなら、泣いているのは正人だ。

「だって……ヒック……子猫が死んじゃったら……」

「大丈夫だよ。ほら、息をしてるだろう?」


 慶一郎が立ち止まり、その場にしゃがんだ。

 つむぎはまだ目を開けることができなかった。

「ぼくが……ヒック……ギューってしちゃったから……」

「うん。子猫、苦しかったよな。次から気をつけような」

 再びしゃくりあげはじめた正人の頭を、慶一郎がぐりぐりと撫でた。

 頷いた正人が、腕で目元を覆った。


 つむぎは、目をこじ開けた。

「あ。起きたみたいだぞ」

 正人は、腕の間からちらっとつむぎを見て、大声をあげて泣いた。

「ほら、あと少しで家に着くから、頑張ろうな」


 二人は本道から脇道へ入って、カーブした坂道を上がった。

 慶一郎の言う通り、門はすぐに見えた。それ自体が家のようになっている、いわゆる長屋門だった。


 こんなに立派なお家だったの?

 つむぎは自分が住んでいるアパートを思い浮かべた。

 私の部屋が四つ……いや、六つくらい入りそう。

 道々、茅葺き屋根の家をいくつか見てきたが、別格の大きさだ。


 脇戸から敷地に入った。

 すぐ側で、茶色の鶏が三羽、首を振りながら歩いていた。

 ……怖い。

 つむぎは、思わず慶一郎のシャツにしがみついた。

「っ」

 微かに慶一郎の声がして、つむぎは慌てて手を引っ込めようとした。しかし、子猫の細い爪は、なかなか着物から離れてくれない。


「げっ! タイチョーがこっちにいる!」

 正人も慶一郎の肩掛け鞄の紐を握りしめていた。

「お前、まだタイチョーと喧嘩してたのか?」

 つむぎの爪を丁寧に離した慶一郎が、正人の方を振り返った。

「うん。だってアイツ、ボクを見ると襲ってくるんだ」

 釣竿を両手で持つと、針が垂れないのを確認した。


「よし!」

 正人は気合を入れて、タイチョーの前に躍り出た。

「いざ、尋常に!!」

 竿を正面に構えたが、「勝負!!」と言う前に、鶏の一撃が襲った。

「タイチョー! 卑怯だぞ!!」

「……鶏だからな」

「そんなの知ってるよ!」

 正人は、タイチョーの二撃目の蹴りを躱した。

 本格的に戦い始めた一人と一羽を残して、慶一郎は歩き始めた。


 母屋は二階建てだ。一階部分の赤瓦はぴかぴかと光り、開け放たれた二階には動く人影が見えた。

 大きい。

 つむぎは慶一郎の腕に前足をかけ、もっとよく見ようと体を伸ばした。

 きっと、障子の入った引き戸が玄関だ。


 だが、慶一郎はそこを通り過ぎ、隣の板戸を開いた。

 敷居を跨いで中に入ると、そこは広い土間になっていた。


 土間からは家畜の匂いがして、隅には藁が積まれていた。奥の壁に見えるのは焚き付け口だ。あそこにはお風呂があるのだろう。


「ただいま帰りました」

 慶一郎は奥に声をかけた。

 誰もいないのか、返事がない。

 少しの間中をうかがってそれを確かめると、上り口の端に行李と鞄、そして帽子を置いた。


 慶一郎が外へ出ると、正人が駆け寄ってきた。

「兄ちゃん! 先に行くなんて酷いぞ!」と、頬を膨らませて怒っている。

「すまない。……タイチョーはどうした?」

「哲治さんが小屋に入れてくれた」

「そうか」

 慶一郎は、安心したように口元を上げた。


「盥を持ってきてくれないか? 一緒に猫を洗おう」

「わかった!」

 正人は門の方へ走っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。