3-1
「じゃあ話はここまでにして、次は史料に付箋を入れましょう」
柴田がペンをホワイトボードに戻した。
「……と、その前に。休憩しましょう」
「やったー! 先生の実習、この時間があるから好きなんっすよね!」
洸太郎が、筆記用具を雑に寄せた。
あれから一週間。つむぎは古文書学実習のティーチングアシスタントに入っていた。学生二人なら柴田の研究室でも十分だが、調査をする広さはないため、学生研究室近くの小会議室を使っていた。
「二人とも、少し待っていてください。僕はお茶を持ってきます」
「私も手伝います」
「僕が戻ってきたら、ドアを開けてくださいね」
柴田は目配せをして部屋を出た。
つむぎはトートバッグからポーチを取り出し、中に入っているウェットティッシュを出した。
それを見て、「オレもやるっす!」と、手を挙げた洸太郎と一緒に机を拭いた。
コンコン
ちょうど拭き終わったタイミングで、ノックが聞こえた。
つむぎがドアを開けると、お盆を持った柴田が立っていた。
「お待たせしました」
お盆には土瓶と氷が入ったガラスの茶碗、竹製のコースターが三組あった。
「泉さん、開けてくれてありがとうございました」
「あ、いえ」
柴田が室内に入った。
「えぇー!? センセー、それ研究室から持ってきたんっすか?」
「はい。冷蔵庫で冷やしておいたんです」
柴田は机にソーサーを並べ、その上にガラスの茶碗を置いた。
カラカラと氷の音を立ててお茶が注がれていく。見ているだけで、とても涼しそうだ。
「どうぞ」
「あざっす!」
洸太郎がぐいっとお茶を飲み干した。
「冷たいお茶、おいしいっす!」
「おかわりもありますよ」
「ください!」
洸太郎の目が輝いた。
つむぎもゆっくりとお茶を飲み干した。
「さて、休憩は終わりにしましょう。二人とも、まずは手洗いですよ」
柴田はそう言うと、茶器を乗せた盆を近くのキャビネットに避けた。
つむぎと洸太郎は、向かい合わせにした長机に中性紙を敷いた。柴田が一台、もう一台がつむぎと洸太郎の席だ。
つむぎは自分の近くに行李を置いて、ふと、窓の外を見た。
青空の中、遠くでトンビが二羽、ゆったりと空を旋回していた。
「どーしたんっすか? 先輩」
「ううん、何でもない」
つむぎは細い短冊状に切った中性紙の束を手に取った。
洸太郎くんは、大丈夫……みたい?
あの青白い封筒を手にした洸太郎を、もう一度見た。
洸太郎は特に変わった様子もなく、封筒をハケで丁寧にはらっていた。
つむぎは胸を撫で下ろしてホッと息を吐くと、付箋の上部に小さく数字を書いた。
次の箱を開けた。




