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行李  作者: 長廻三月
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14/21

3-1

「じゃあ話はここまでにして、次は史料に付箋を入れましょう」

 柴田がペンをホワイトボードに戻した。

「……と、その前に。休憩しましょう」

「やったー! 先生の実習、この時間があるから好きなんっすよね!」

 洸太郎が、筆記用具を雑に寄せた。


 あれから一週間。つむぎは古文書学実習のティーチングアシスタントに入っていた。学生二人なら柴田の研究室でも十分だが、調査をする広さはないため、学生研究室近くの小会議室を使っていた。


「二人とも、少し待っていてください。僕はお茶を持ってきます」

「私も手伝います」

「僕が戻ってきたら、ドアを開けてくださいね」

 柴田は目配せをして部屋を出た。


 つむぎはトートバッグからポーチを取り出し、中に入っているウェットティッシュを出した。

 それを見て、「オレもやるっす!」と、手を挙げた洸太郎と一緒に机を拭いた。


 コンコン

 ちょうど拭き終わったタイミングで、ノックが聞こえた。

 つむぎがドアを開けると、お盆を持った柴田が立っていた。


「お待たせしました」

 お盆には土瓶と氷が入ったガラスの茶碗、竹製のコースターが三組あった。

「泉さん、開けてくれてありがとうございました」

「あ、いえ」

 柴田が室内に入った。


「えぇー!? センセー、それ研究室から持ってきたんっすか?」

「はい。冷蔵庫で冷やしておいたんです」

 柴田は机にソーサーを並べ、その上にガラスの茶碗を置いた。


 カラカラと氷の音を立ててお茶が注がれていく。見ているだけで、とても涼しそうだ。

「どうぞ」

「あざっす!」

 洸太郎がぐいっとお茶を飲み干した。

「冷たいお茶、おいしいっす!」

「おかわりもありますよ」

「ください!」

 洸太郎の目が輝いた。

 つむぎもゆっくりとお茶を飲み干した。



「さて、休憩は終わりにしましょう。二人とも、まずは手洗いですよ」

 柴田はそう言うと、茶器を乗せた盆を近くのキャビネットに避けた。


 つむぎと洸太郎は、向かい合わせにした長机に中性紙を敷いた。柴田が一台、もう一台がつむぎと洸太郎の席だ。

 つむぎは自分の近くに行李を置いて、ふと、窓の外を見た。

 青空の中、遠くでトンビが二羽、ゆったりと空を旋回していた。



「どーしたんっすか? 先輩」

「ううん、何でもない」

 つむぎは細い短冊状に切った中性紙の束を手に取った。


 洸太郎くんは、大丈夫……みたい?


 あの青白い封筒を手にした洸太郎を、もう一度見た。

 洸太郎は特に変わった様子もなく、封筒をハケで丁寧にはらっていた。

 つむぎは胸を撫で下ろしてホッと息を吐くと、付箋の上部に小さく数字を書いた。


 次の箱を開けた。

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