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行李  作者: 長廻三月
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13/21

2-5

 手元にできた影に、つむぎは顔を上げた。

 いけない。つい夢中になってしまった。

 あんなに騒がしかったのに、いつの間にかみんな帰ったようだ。薄暗い部屋は変わらず雑然としているのに、どこか冷たい。


 つむぎは軽く伸びをした。

 窓から差し込む茜色の光が、壁を色付ける。

 電気をつけよう。

 つむぎは立ち上がった。

 ……なんだかお腹がすいた。


 そういえば、みんなでポテトチップスとチョコをつまんだのが最後だった。コーヒーでも淹れようかな。

 つむぎは自分の机に置いてあるマグカップを手に取った。

 伏せられた本が目に入った。残りページがほとんどない。洸太郎たちのおかげだ。

 つむぎは目元を和らげた。


 一度マグカップを洗い、インスタントコーヒーの粉を入れた。クリープは二杯。

 電動ポットのお湯を注いで、歩きながらくるくるとかき混ぜた。


 テーブルに、一粒だけ箱入りのチョコが残っていた。碧人が買ったものだ。

 つむぎは、それを口に入れた。

 甘い。頭に染みる。


 つむぎは椅子に腰掛け、マグカップに口をつけた。口に残った甘味をコーヒーが流した。

「はぁ」

 思わず吐息が溢れた。

 先生が淹れてくれるコーヒーには敵わないけど、これも十分おいしい。


 ……封筒を持った時だったなぁ。

 つむぎは、将校行李の中を思い出した。


 猫になって、過去の世界にいた。

 慶一郎さんと正人さんに会った。

 気が付けば研究室に戻っていた。


 もし、本当に過去へ行っていたのだとしたら。

 もし、もう一度過去へ行けるとしたら。

 慶一郎を救うことはできるだろうか。


 つむぎは、マグカップをぎゅっと握った。

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