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7.天を貫く赤き閃光

 次の日の学校の昼休み。2年4組の教室内は、今日も賑やかだ。昼食が終わっても男女それぞれウマの合うグループ毎に集まり、わいわいガヤガヤしている。次の授業のテストについておしゃべりをする女子生徒もいれば、プロレス技のかけ合いをする男子生徒たちも居て、稀に奇声も聞こえてくる。至って普通の、学校の教室の賑やかな様子。そんな教室に入ってきた心が、レナのいる席へと歩いてきた。


「何してんの?」


 レナの前の席が空いていたので横向きに椅子に座り、両足を入れ違いにぷらぷらさせながら頭だけレナの方を向いて尋ねる心。


「あぁ……心……えっと……次の世界史の小テストの勉強……してる……」

「ふぅーん」


 ぷらぷらさせていた右足だけを、床とほぼ平行になった時に止めてみる。


「ヤバい……! 全然覚えられないぞ!!」

「もう駄目じゃん? あはは」


 笑いながら再び両足をぷらぷらさせる心。


「煩いな、あぁ! 全然頭に入らん! うぅ……」

「いい事教えてあげよっかー」


 心はまた両足をぷらぷらさせたあと、今度は左足が床とほぼ平行になった時に止めてそう言った。


「何を? ……あぁやばい!!」

「教えちゃおっかなぁ~♪ ま、教えてあげてもいっかぁ~♪」


 今度はぷらぷらを速くさせながら、少し得意げになっている心。


「だから何をだよ……! うぅ、焦って全然頭に入らないぞ!」

「うんとねー、頑張って今更勉強してるようだけど……今日、テスト、無いっ! 世界史の沼田先生、今日は休み! さっきうちのクラスでも世界史の授業の時間あったけどぉ、先生いないから小テストも無かった!!」

「ウッソ!! マジ!?」


 教科書とにらめっこしていたレナが心の方にやっと顔を向けたのはその時だった。


「マジ!!」


 レナの顔に満面の笑みを近づけて応える心。


「なぁんだよぉおぉぉおぉぉおぉ! ラッキィィィーーーー!! ってかだったら勿体ぶらずに早く言ってくれよ! もう!」

「いや、レナが焦ってるのをみて面白かったからつい、ね」

「つい、ね、じゃねーよぉ! なんだよぉぉーもう! ……まぁいいや!! あぁ……良かった良かった~!!」


 レナが安堵しながら世界史の教科書を閉じ、机の中にしまったその時、教室内に


「きゃ~!!」

「わぁ~!!」

「かわいいっ!!」


 という黄色い歓声がどよめいた。二人もその対象に目をやる。二人の女子生徒が教室に入ってきた。学年の人気者、茜とケイトがやってきたのだ。


「どうしたの!? いつもすぐ居なくなっちゃうのに!」

「こんな時間に他のクラスにやってくるなんて!」

「ケイトさん! お元気!?」

「茜もどうしたの? 四組に入ってくるなんて珍しい!」

「茜! 今日も髪型決まってるぅぅ!!」

「ケイトの髪の色真似したいんだけど、その色どこで買えるの? 教えてよ~!!」

「茜!」

「ケイト!」

「茜さん!」

「ケイトちゃん!」

「茜!」

「ケイト!」

「まいったな……」

「あはは……」


 入ってくるなり、取り囲まれるように話しかけられる。あまり知らない人が見ても、すぐにこの二人が人気者であることがわかるような、あっぱれと言ったモテっぷりだ。ケイトが一人の時保健室にいるのも、これが理由の一つだ。


「おいおい……あの二人って、あんなにモテるんだ……知らなかった……」

「わたしも……」


 その二人が、感心している心たちの元へ歩きだすと、周りの生徒たちも男女入り混じって一緒にやってくるので、まるで大きな塊がやってくるようであった。


「おっつ~! お二人さん!」

「こんにちは! 心! レナ!」


 二人が心とレナに挨拶すると、周りのギャラリーも喋りだす。


「挨拶してる~!!」

「え!? え!? お二人は、このお二人と仲が良いのですかー!?」

「凄い組み合わせ~!」

「でも、なんか……! かっこいいグループじゃん!?」

「知らなかった!!」

「知らなかった~!!」


以降、心・レナと茜・ケイトが学校で会うようになったのは、昨日の出来事を経たこの日からだ。四人で一緒に闘い、四人で奇跡に遭遇し、また心の家で、四人で美しい月を眺めた。いつか思い出すであろう、美しかった昨日の光景。昨日の同じ時間にはまだ、自分達がこのような一つのグループになるとは思ってもいなかった4人。他の生徒たちが知る由もなかった。


「や、やぁ……お二人さん、なんか凄い人気だな……はは……」

「こんちはぁ……はは……って、びっくりするよ……」

「きゃぁ~!! やっぱり4人のグループなんだ~!?」


 呆れた笑顔でレナと心も返事をした。


「ちょっと、移動しない……?」


 提案する茜。


「そうだな。行こう!」

「ええ!」

「うん!」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 上から見るとカタカナの『エ』の文字を少し湾曲させた形に見えるその校舎の屋上は、ドアを開けると二角目の縦線の中央に出る。西側を向けばエの一画目の横線、逆に東側を向けばエの三画目の横線のエリアに分かれている。勿論、屋上の周りは全体がぐるりと落下防止のための金網フェンスで覆われていて、東側エリアは一般的な学校の校舎と同じように殆ど何も無いが、西エリアは花壇がありベンチもある。この屋上は放課後までは生徒たちが自由に出入りすることが許可されていて、昼休みのこの時間はいつもそれなりに賑やかだ。それでも先程の教室よりかは静かなので、茜は屋上を提案したのだった。


 四人が屋上に出ると、西エリアのベンチ付近や花壇近くには既に先客が居たし、静かそうな方がいいと思った茜は3人を先導し東エリアに向かった。


「ここなら、普通に話せるね!」


 茜は振り向き様そう言うと、金網を背もたれにして寄りかかった。


「うん」


 心は背中の後ろにある金網に持たれかけながら答える。


「しかし、本当、君ら……モテるねぇ!! なんでそんなにモテるの?」


 レナが冗談半分に言った。


「さぁ?」

「あはははは」

「ははははは」

「ふふふ」


 二人分の「さぁ」という言葉が同時に響き偶然綺麗なハーモニーを生んだ。それが可笑しかったのか、返事した茜のジェスチャーが面白かったのか、茜が笑うとみんなも笑った。


「あぁ、茜は、たぶん『それ』だな!」

「うん!」

「え?何が?」


 心もその言葉に賛同し頷いた。茜は不思議がるなか、レナは続いて答える。


「モテる理由! それだ。笑顔! 私が常日頃思っている事だけど、人はやっぱりさぁ、笑顔が一番だ! 茜の場合、それがとても美しく見える。顔立ちが綺麗だからかな! それが自分に向けられたものだと思うと、何かこう……勇気が湧いてくる!」


 ケイトはレナの言葉を聴いて、確かにこれまでその笑顔に勇気を貰っていたことを思い起こした。砂場で助けてくれた時……。あのあとまたやってきた悪ガキ4人組から救ってくれた時……。学校の帰り道、夕立になってコンビニで雨宿りしていたら、土砂降りの中、わざわざ傘を家から持ってきてくれた時……。輩にナンパされた時……。自分を守ってくれるとき、いつもその笑顔を見せてくれたことを。その思いを含む言葉はこれだった。


「本当に……そう思う」

「そ、そんなこと言われたの初めてだよ……な、なんか恥ずかしいな……っていうかよくそんなこと、さらっと言えるなぁ……」


 茜は恥ずかしそうに言うとレナはきっぱりと言った。


「あぁ、私は思ったこと、ずばり!言うからなぁ~」


 それを聞いているうちに笑顔になり、金網の向こうへと振り向くと、それを両手で掴み、左足のつま先を金網の網目の隙間に突き刺した。そして屋上から見える景色を見た心がふいに視線をずらすと、異様なものが見えた。この江茂志四高から遠く離れた北西は湾となっていて、湾とこの町はその手前で大きな二つの山で隔てられている。心が見ているのは片方の山の頂上付近だった。


「あれは……何……?」


 心には、『赤い光線』のようなものが天高く真っ直ぐ上に伸びているように見えたので、その疑問をみんなに投げかけた。


「ん? どれどれ……え!? なんだあれ!? ビーム……?」

「赤い……」

「赤いビーム……」


 心・レナ・茜の3人が思い出したのは、昨日見た、ケイトの光る手が発したレーザービームのようなもののことだった。色こそ違うが、それにとても似ている気がした。


「ケイト……?」


 皆がケイトの方に振り向き、名前を呼んだ。


「違う! 違うわ! 私じゃない! 私、何もしてない……!」


 考えてみれば、昨日ケイトが放ったそれは、ケイトの手から発せられたものだ。今起こっているあれは遠く離れた場所の出来事で、ここから見える位だから、そもそも規模が違う。ケイトは関係なかったのに、ケイトが何かやってしまったのではないかと少しでも疑念を持ってしまったことに3人はそれぞれ反省した。


「あぁ……ケイトごめん~……だけど、アレはなんなんだ!?」


 レナが戸惑いながら再びその方向に目をやると、隣に立つ茜が冷静に、その光景を観察しながら言葉を返した。


「天に向かって一直線に伸びているようだけど、他に何か起こる気配は無いよねぇ……」


 そういいながらじっと一点を見つめていた茜が、意を決したように言葉を継いだ。


「あそこに行けば、ケイトの事と関係してるのかとか、何かわかるかも……」

「よし、放課後、行ってみよう!」


 心の最後の声で全員の意見が一致した。




――続く

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