61.檻の中の戦士たち④
「そして次は!! お前だああ!! グルルルルルゥー!!」
サイガが次に狙ったのはレナだった。そのサイガの剛腕がレナの左腕を襲った。
グシャーーーーー!!
それは何かが潰れる音だった。サイガのあまりにも強靭なその肉体から放たれる攻撃はレナの左肩から下の機能を停止させた。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「ぐぁ……ぁぁ、レナ!!」
レナとまだ立つことができずにいる心。プレッシャーにより動くことが出来なかったため、背後で二人の戦いを静観させてもらっていたケイトだったが、首を左右に振ると二人の所へ駆け込んだ。
「危なかった……二人とも、ごめんなさい!! 私のせいで……!」
そして前の左右にいる二人に黄色い光を当てると、心とレナはみるみると回復した。二人は治してくれるその表情がいつものケイトだと悟りすこし安堵した。
「ケイト、ありがとう!」
「ケイト……サンキュ!!」
「ぬぅぅ!! 今のは『瞬刻再生』!! サイガ!! まず叩くべきは、この女からだった!!」
「グルルルルルゥー!!」
髪が逆立ち……二人のブラモンたちへと振り向いたケイトの表情が変わっていた。
「双頭瞬刻波ぁぁぁっ!!!」
その名は、ケイトが咄嗟に考えたものである。『瞬刻波』であることに変わりはないが、左右の掌から放たれたその攻撃力はより強力であった。高等ブラモンたちの強靭な肉体の一部を強引に押し潰す圧倒的な破壊の衝撃となった。アリーナ全体の野次を瞬時に掻き消し、闘技場の空間全体を平伏させた。
ドッゴォォォォンン!!
「ぐほぉぁっ!! わ、忘れていた!!」
「うぐぁっ!!! こいつは……『瞬刻系マスター』……か!?」
「瞬刻系マスター? ふん!!そんなものは知らない。ただムカつく奴を叩くだけだ!!」
「こいつ……口調が変わった……」
「グルルゥ! マスターは……していないようだなぁ!!」
「ん? うるっせぇぞ!? もう1回喰らわしてやろうか?」
「ケイト! もう大丈夫! もう十分! 私たちでも倒せる!!」
「あぁ!! 回復できたしなぁ!!」
「あ、そ? これからこいつらを一人で片づけてやろうかと思ったけれど? 二人がやりたいって言うんなら、まぁ、いいか……」
そう言いながら二人を飛び越え、リングのコーナー近くにきたケイトは再びいつもの目つきに戻った。
ぽわぁ……
「ふぅ……じゃぁまた回復にまわるわね!!」
ケイトにその一撃を喰らい、プライドをへし折られたサイガとゼノス。心・レナがその二人と再び対峙する。
「レナ、後ろで頼む……! でもそれが見えないからって私に引け目を感じないで欲しい。すぐ見えるようになると思う!」
「ふっ……そうか? わかった!! 今はとりあえず、『驚反』だけは用意しとく」
心はレナのプライドに傷付けないようにそれを付け加えた。レナも心のその気遣いを知り、自分に今できることをしようと思った。
ピキィンシュバッ……ピキィンシュバッ……ピキィンシュバッ……
それは、サイガの言った、高次元の読み合いの音だ。
サイガとゼノス、どちらかのための感情閃光が見えた時、なぞられないようにするために、心が『事前に用意』しておいた卓越感情のオーラでその閃光を打ち消す。そして心のための感情閃光がサイガ・ゼノスのどちらかがこれを打ち消す。『感情閃光後』の攻撃でなければ決着がつかないと悟っていた3人は実際に身体を動かすことはなく、しずかに攻防を繰り返すのだった。しかしその時のレナにはそれを目視することすらできない状態。それゆえ心はレナに下がってもらい、一人で二人を相手しているのだ。
「心、頼んだ!!」
心は、それらを搔き消していく中で、今一度自身の感情閃光が出現することを望んだ。
「うぐぅぅ!」
しかし一対二のその攻防では心が不利だった。偶然、サイガ・ゼノスのための閃光が同時に現れてしまった瞬間!サイガの方を搔き消したものの、瞬間的に放たれていたゼノスの剛腕がそこをなぞったのだ。それがまた心に当たる!
グシィィィィ!!
「ぐぁぁぁぁぁぁっ!!」
またもや心の左腕が破壊された。咄嗟にケイトが駆け寄り、直に掌で患部に『瞬刻再生』の光を照らした。
「ケイト、ありがとう!」
「ええ!!」
「くそ……グルルゥ!!」
「ならばきさまだ!!」
今度はサイガがレナの前に躍り出る。
ピキィィン!!
サイガがレナに対する感情閃光を見つけた。それを目視できないレナは打ち消すことが出来ない。
ドガァァ!!
「ぐぁぁぁぁぁぁ!!」
その一撃がレナの左腕の肘を襲った。レナの左腕があらぬ方向へ曲がった。
「くそぉ……強……烈……!!」
その瞬間。サイガ自身の左腕がレナと同じ有り様になっていることに気付くと同時にその痛みが彼を襲う。
「んぎゃああああああああああああ!!」
「へへ、ざまぁみろ……それが『驚反』だ……」
狙っていた驚反。レナが『驚き』を拒まず受け入れることによって体得したその技は、相手の隙を突くカウンターとして発動され、自身に与えられた攻撃と全く同じ攻撃の刃を相手に必ず当てる。自身の感情閃光が見える者たちの、その後の攻撃が必ず当たるのと同様に驚反にもその特徴がある。
ケイトはレナへ駆け寄ると、その負傷した左腕に直に触れて『瞬刻再生』を使った。
「ケイト……すぐに治してくれてありがとう!」
「うん!!」
再びケイトの能力を見たサイガとゼノスは思わず後ずさる。目の前のレナが、破壊されたはずの腕を何事もなかったかのように動かしている。
「ぐぐぐ、また『瞬刻再生』!!」
「やはりこの娘だ!まず倒すべきはあの娘だったのだ!!」
サイガ・ゼノスは錯乱したように声を荒げた。
「レナ、ケイト、サンキュ!!」
サイガ・ゼノスの二人が攻めの姿勢を崩していたその瞬間。スピードに長けている心が、二人が繋いでくれたこのチャンスを逃すはずがなかった。
(見えたぁ!!)
再び視界に赤い閃光がサイガの喉元を捉えた。その閃光の角度は先ほどのトルネードアッパーを打つ前と同じ角度だ。サイガはレナの『驚反』による左半身のダメージにより一手遅く、それを搔き消すことが出来ない。狙いに狙っていた心にとって、搔き消し抵抗の無いそれをなぞることは容易かった。
(やばいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!)
心のトルネードアッパーが、サイガの顎を襲う。
ドッガァァァァァン!!
「ぐはぁぁっ……!!」
サイガの巨体が回転しながら後方へと吹き飛ぶ。ゼノスが心に攻撃をしかけようとしたが、レナが鋭い視線でそれを制した。
「あんたの相手は……私だ!」
「ヌゥゥゥゥゥ!!」
レナの気迫に、ゼノスは一歩後ずさった。
バッダーーン!
それと同時に、心の一撃を食らったサイガが、轟音と共にマットへ沈んだ。レナの『驚反』、さらに心の、『赤い閃光をなぞった』強烈な『トルネードアッパー』を受けたサイガは、ヴァルガ同様、倒れるとピクリとも動けなくなった。残された鳥の身体を持つゼノスは二人がやられたとなっては、どうあがこうといずれかにやられると悟った。彼は、チームで唯一、能力を一つだけ備えていたが、その能力『ビーム』を一度も使うことなく、静かに両手を上げたのだった。
「……私の負けだ。これ以上は無意味だ」
先ほどまで会場を包んでいた怒号が、一瞬で止んだ。
「おいおいおい……!!」
「なぁんだよぉ、負けちまったじゃんか……」
「……でもまぁ、あいつらもよくやったんじゃねーの?」
パチ……パチパチ…パチパチパチパチ!!
一瞬の間のあと、やがて心たちの耳に届いたのは、誰からともなくならされる拍手の音だった。それは瞬く間に闘技場全体を揺らすほどの歓声へと変わっていった。
ウゥォォォォオオ!!
「やるじゃねーか! 見直したぜ!人間!」
「そんなことがあるかぁ!! やり直せー!!」
「いや、しょうがねーよ! あいつ降参したじゃん!!」
「ゼノスー!てめぇ仲間がやられて自分だけ降参かよぉ!」
「いいぞ! いいぞ! エモーションズ!!」
エモーションズ!! エモーションズ!!
驚く心だったが笑顔になる。
「へ…へへ!」
(あんなにアウェイ感漂わせてくれたやつらも褒めることあるんだな!)
「ゼノス降参っ!! および他2名も戦闘不能! 勝者、エモーションズに決定!!」
市長の宣言が響き渡った。観衆からの罵声と称賛の声は鳴り止まない。心は顎の汗をふきながら、レナとケイトの方を向いた。二人は、リングの中央で最高に晴れやかな顔で笑っていた。
「やったね、心!」
「……うん。みんなのおかげ」
「あぁ! やったな!」
異なる色のオーラを纏った3人の手が、固く熱く重なり合う。3人をスポットライトが照らすと、それは美しくも神々しい三色のスペクトル……幻想的な光の帯となって正八角形のリングを装飾した。
(心とレナ、そしてケイト……見せてもらいましたよ。あなたたちのチームワーク!)
それは、心たち3人がこの過酷なトーナメントで掴み取った初の勝利だ。いつの間にか3人は手をつなぎ観客にむかって手をあげた。その時ふと、3人の脳裏に共通の思いが過った。これまで何かを成し遂げ、大切なものを得るたびに、そこには常に過酷な試練が立ち塞がっていた気がする。この初戦も、単なる力のぶつかり合いではなかった。3人それぞれの卓越感情を、一つの勝利への想いへ昇華させるためという試練でもあったのだ。 そう悟りながら、3人は互いの温もりを感じる手の中で、つかみ取った勝利という現実を実感したのだった。
――続く




