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52.緑の閃光

 九月の終わりの朝、心のクラスである2年3組にやってきたケイトが、とても心配そうな顔で、心とレナに言った。


「茜、今日も学校に来てないの。メッセージを送っても……既読にもならない……電話にも出ない……家にも行ってみたけど……留守だった……」

「……たしかに昨日会ってないな……」

「え……」


 レナは突然のことに何も言えなかった。


「留守……? お父さんは? 茜は、お父さんと二人暮らしだよね……?」

「そう。実は、つい先日までは、茜は……それはかわいそうな境遇だった。でも、茜のお父さん、優しかったころの昔のおとうさんに戻ったと教えてくれたの。だから最近はとても元気だったの……私もそれを知って嬉しかった……それなのに……当の本人の……茜が居ない……」


 実は心は、茜が元気になった理由、つまり父親が元に戻った理由を知っていた。それは、自分自身が、その出来事の当事者の一人だったからだ。しかし、茜の父親が元に戻るに至った『数日間』の過程は、当事者である茜と心にとって、壮絶な出来事だった。説明する事すら容易な事ではなかった。しかし、結果としては良かったのだから、その件について、多くは語るまいと、茜の親友であるケイトにさえ、茜と心はわざわざ伝えることはしなかったのだ。


「あんなに元気だった子が、無断欠席とかありえない。恐らく……何かに巻き込まれたのかも知れない……」

「そんな……!」


 心とレナは真剣に受け止めるが、それ以上は何も言う言葉が見つからなかった……。ケイトは続けた。


「私、昨日の夕方、遠くの空の一部が、一瞬緑色に染まったように見えた……」

「え?」

「オミナス・ベイパー……ブラモンが現れるのも、それ……」

「茜が攫われた……?」


 その時、三人のアプリにBRFの咲からメッセージが届いた。「オミナス・ベイパー」というタイトルで、動画が添付されていたが、三人はそれを後回しにし、まずは読んだ。動画を見る勇気が出なかったのだ。咲によると、BRFの見解はこうだった。


「先日のゲラとドラ、およびスイミーの前に現れたというブラモンについて把握している。またスイミーにより、ブラモンには漆黒の穴を生成する能力があることも把握している。故に、ブラモンを仲間にすることができれば、アグダラに行くことができるだろう。そして元々これまで連れ去られてきたのは幼い子供だけだったが、向こうの星、つまり『アグダラの方』が焦っている状態なのか、対象が子供から少し成長を遂げた若者へと変わったのかもしれない。先日四人が会ってしまった『高等ブラモン』のように……。そして……鳳茜が一人の時にそのターゲットになってしまった……」

「くそっ!!」


 それは心の声だった。3人とも、内容を読んで胸がきつく締められた。今脳裏に過ったことがそこに事実として知らされた。そして恐る恐る、添付された映像を観る。それは、その周辺の空模様をすぐに察知したBRFが、茜にドローンを追跡させて撮影できた証拠の動画だ。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 画面は、夕方、富士見乃屋書店を出た広場にいる茜の後ろ姿を映していた。その手に持っている漆黒の書が輝きを放っていた。そして、それは当然のように起こった。茜の前に直径1メートルほどの真っ暗闇の穴が広がる。その中、下の方からブラモンが姿を現すと、対峙する茜をじっと見ながら『こちらへどうぞ』と言っているかのような仕草をしている。その誘いに、嫌がるようでもなく、なぜか茜は『漆黒の穴』の方へと歩いていく。そしてそのまま、薄暗い穴の中へと入ると消えていった。否、落ちていった。ブラモンもそのあとを続いた。その時、漆黒の穴から一瞬、緑色の閃光が天に向かってビームのように放たれると穴は収束し、残った一点が消えた。その一部始終を捉えた映像だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 数日後、学校、茜の教室にて。


『やぁ、心~! おっつ~!!』


 いつもの昼休みの時間に遊びに来る時の、茜のあの元気な声と笑顔が、今日は無い。きっと明日も……明後日も……。それは、あの動画を見た者たちだけの孤独の戦いだ。自分たちでどうにかしなくてはならない。奪われたものは、自分たちで取り戻すしかないのだ。


 外ではもちろんガヤが聞こえるが、3人のその様子を見てか、茜のいたクラス内では、いつも一方的にケイトや茜に挨拶してくる生徒たちも、ずっと静かだった。


 心は茜がその机に花を添えた者は誰だと久しぶりに突発的に怒ったが、怒ったところでどうにもならないとケイトに言われ、苛立ちを抑えた。放課後、教室や廊下に誰もいなくなった頃、3人でその机を、普段使われていない教室へと持っていった。机の裏に、ケイトがその名前を書いて貼った。『帰ってきたらいつでも戻せるように』。茜はアグダラという星にいるだけで、死んでなどいないのだから。


「心、レナ……私にも、あなた達と同じ位の理由ができたわ! 私もアグダラに行くわ!」


 茜はアグダラにいる。それは親友であるケイトが『アグダラ行き』を覚悟するのに十分な理由となった。心が以前、偶然ブラモンに会えたように、こちらにやってくるブラモンを仲間にすることができれば、連れて行ってもらえるかもしれない。それを頼りに、ケイトも心同様、親友を取り戻すための旅に出るのだ。レナは弟を取り戻す目的が新たにできたが、その前から心と一緒に行くと既に決めていて、心もそれを認めている。そしてケイトの意思を聞いたことで、3人の気持ちが同レベルで一致したのだ。




――続く

修正:上級ブラモン→高等ブラモン

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