50.唐突な吉報
早くも9月が下旬へと差し掛かっていた。学校から帰ったケイトの部屋の机の上で、スマートフォンが短く震えた。画面に表示されたのは、茜の名前だった。
『奇跡が起きたよ。昔の、優しいお父さんに戻った』
「!?」
それだけの、短いメッセージ。ケイトは、しばらく画面を見つめたまま動けなかった。理由は書かれていない。どうしてそうなったのかも、何があったのかも。ただ一つ言えることはある。
(お父さんのことについて、茜は冗談でも絶対にそんな嘘はつかない。きっと事実で、何かがあったんだわ……!!)
それに、これまでの自分たちの身に起こってきた出来事を思い返せば、たった数日で昔のお父さんに戻ることも、一概にありえないとは言えない!自分も普通の女の子から一瞬にして能力を得たのだから。
(何か、とてつもない出来事が起こったんだわ……誰かが、茜に手を差し伸べてくれたのかも……もしかしたら、茜が一人で、漆黒の書で導き出せたのかもしれない。きっと理由が複雑なんだわ。だから、結果だけを送ってきてくれたんだわ! 茜の父親は、昔のおとうさんに戻ったんだわ!!)」
ケイトは、これ以上、何も聞こうとしない。理由を掘り下げるよりも、今この瞬間の気持ちを伝えるほうが大切だと思った。指先で、短い返事を打つ。
『茜、良かった……私も、とても嬉しい……!』
それを送信したケイトの胸の奥に、確かな安堵が広がる。誰かの家庭が救われたという事実は、この世界がまだ壊れきっていない証のようにも思えた。
しかしその時だった。ふと窓の外に視線を向けた時、遠くの空の一部が、一瞬、ほんの一瞬だけ、緑色に染まったような気がした。ケイトの胸に、わずかな違和感が残った。鼓動が少し早まる。空は何事もなかったような夜の色へ戻っている。静かで平穏で、いつも通りの景色。ケイトは、それがとても怖かった。
――続く




