44.虎と狼③
44.虎と狼③
再び神宮寺道場近く。
(親父が……!)
「グルルル! 助けに来ないのか!?」
ドラが横たわる勘吉の胸に足を乗せ、体重をかけていく。
「ぐぁぁぁっ!!」
(くそっ…くそっ……)
レナは身体が動かず助けに行けずにいた。恐怖が彼女を蝕んでいるのだ。
「レナ……!! レナ……!!」
「はっ!!」
勘吉が最後の力を振り絞ってレナの名前を呼び、語り始めた。
「お前に……言い残していたことがある……何も言わず……聞いて……くれ」
「!?」
「ぬ!!こやつ!!まだ喋る力があったか!!」
グリグリグリ……!
「レ……ナ……お前……には……弟……が……いる……」
「え!?」
「名前は……優斗……13年前の……神隠しの……被害者……だ……お前は……俺に教えてくれた……そのあとに……ショックで……その時の記憶を……失くした……その時のショックが、お前に……恐怖の形となって現れているんだ……だからこいつのように……強いブラモンを前にすると……身体が……動かなくなって……いるんだ……」
勘吉の血を吐くような言葉が、レナの脳裏に眠っていた忌まわしい記憶の扉を叩く。
(……神隠し?……私……記憶……)
ピカァァァ!!
レナの脳裏に強烈なフラッシュバックが奔る。
眼前に立ちはだかる、大きく獣の形をした恐怖の影。恐怖で動けずにいる自分を残したまま、泣き叫びながら連れ去られていく男の子……。
「優……斗……」
勘吉は、消えいきそうな意識の中で必死に言葉を紡いだ。
「おまえがブラモンを恐れるのは、相手が強くて怖いからじゃない……。その時のショックや……何もできなかった絶望が……刻まれてしまっている……だが……レナ……もう大丈夫だ……お前は……強いんだ……」
(親父……!)
勘吉は娘の呪縛を解き放つために、最後の命を言葉に変えた。
「優斗を……取り返して……くれ……頼んだ……ぞ……」
ガク……
勘吉の首が力なく横へと垂れる。
「ようやく、死んだか!! グルルルル!!」
(しん……だ……?)
レナは、目の前の出来事に茫然と立ち竦んでしまった。その時!
ブゥン……!!
レナの背後に現れたのは、心とケイトだった。レナは未だ茫然と立ち尽くしていた。
「あぁ! 勘吉が!! ケイト頼む!!」
「えぇ!! 心、レナ! そこをどいて……!!」
ケイトは勘吉へ駆け寄ると、勘吉の身体に触れ、全霊を込めて手をかざす。
「おやおや、お前はなんだ!? 邪魔だ!!」
「ケイトの邪魔をするなー!!」
ドガァッ!!
心が『無刹』でケイトとドラの間に入り、ドラにハイキックを打った。
「ぐ……こいつ!!」
ケイトは目の前のドラを見ることなく、ただひたすら手に念を込める。
シュォォォォォオ!!
(何故……!?『瞬刻再生』が……効かない!?)
「親父……」
獣のブラモンに弟を連れ去られ、そして今また、目の前で父親が息絶えたことを悟ったレナに、その巨大な喪失感がカウンターの能力に作用し、恐怖を消し去った。その瞬間、レナの卓越感情のオーラを爆発させた。
ブォォォォォ!!
レナのオーラが炎のように揺らいでいる。
「……お前は、私が倒す!!」
「動けぬお前が俺様を倒すだとぉ!?」
レナがドラへと一歩進むたび、ドラの猛攻が襲い掛かる。しかし、放たれる攻撃はレナのゼロインチパンチによってことごとく迎撃され、逆に破壊されていく。
ザ……ドスッ!! ザ……ドスッ!! ドスッドスッドスッ!!
「何!? こいつ動ける!? グルルォォォ!!」
歩みを進めながら繰り出される数度のゼロインチパンチが、ドラの身体をひとつひとつ機能停止へと追い込み、その破壊が終わるころ、レナはドラの眼前に到達していた。
「この……俺様……が!! こんな……奴にぃぃぃぃ!!」
「親父の痛みを味わって死ね!!」
ズババババ!!
正拳突きの構えから放った拳を、人差し指と中指二本の指を立ててドラの胸の部分に突き刺した。
「がかはぁっ……」
それは勘吉が傷を負った、人間の心臓にあたる部分。レナはドラを文字通り圧倒し、粉砕した。ドラは霧となり、収束して消滅していった。
戦いが終わり、レナは勘吉を膝枕していた。勝手に涙が出てくる。
(親父……親父が……死んだ)
(う……嘘よ……そんな……放った時にはまだ息があった……それに傷も消えている!!)
諦めきれないケイトはその念を送り続ける。その時、ケイトの黄色の膜が黄金の膜へと変わった。それが放たれている勘吉の体も、金色の膜で包まれた。
◆◇◆◇
(俺の……鼓動が……消えていく……死の淵か……)
深い、絶対的な闇の中。勘吉の意識は、音のない冷たい底へと沈んでいく最中だった。
レナにすべてを託した安堵と、優斗を自らの手で救えなかった無念が入り混じりあっていた。
(俺はこのまま、それすら薄れて「無」に帰ろうとしているのか……)
その時、その漆黒の淵へ、突然、圧倒的な温もりを伴った『黄金の光』が差し込んだ。
(何だ……この……俺をを包み込む……優しい光は……?)
そこにケイトの思念も入り込んだ。
『諦めてはいけない……』
その言葉とともに、強烈な祈りのエネルギーが、向かうべき場所へとものすごい力で引き上げられるのを感じた。
その光の奔流の中で、勘吉は確かに、再び自身の鼓動が鳴り始める音を聞いた。
◆◇◆◇
「うぅ……あ? レナ?」
「はぁぁぁっ……! 親父!!」
「勘吉……!! や……やった……」
「ケイトの……おかげか。ありがとうよ……」
「よかった……」
「やった……やったぁぁ!! 勘吉が生き返ったぁぁぁぁ!!」
その後、茜も合流し、四人は互いの情報を共有したのだった。
――続く




