27.筆記試験
スイミーの合宿から一週間後。心たち四人は再び呼び出され、二〇七会議室の長テーブルに並んで腰を下ろした。彼女たちの前に立ったのは、咲だった。
「先日は長時間説明を聞いてくれてありがとう。そこで、誤った認識が無いよう、また、四人に認識を共有してもらうため――いきなりだけど、今日はこれから『筆記試験』をしてもらうわ」
心は机の上に配られたその紙を見て、思わず声を上げる。
「えーー!! やだ! 学校みたいじゃん!! テストとか苦手なのに……」
実のところ、心はそろそろ決着をつけたいと思っている『クロコー』のことで頭がいっぱいだったので、急な筆記試験によってそれが邪魔されたことに、不満を覚えたのであった。
「静かに。一生懸命にやっているあなたたちなら、簡単な内容だから安心して。でも一応筆記試験なので、相談はしないように。では始めて!」
返答する言葉は厳しいながらも、その目は優しく感じられた。心は口をとがらせながらもその問題に目を通した。
◆◇◆◇
問1……卓越感情を持った人間がいる。その人間が、それを持てる『きっかけ』となった出来事は何か。
問2……自分の卓越感情を答えろ。
問3……漆黒の書を現在所持しているのは誰か。
問4……オミナス・ベイパーとは何か
問5……前回説明で西条咲が言った、これから会うことになるであろう人物とは誰の事だったか
その他
問題はすぐ解けるはず。
終了したら……以下を是非、皆に考えて欲しい。
『真実の収束点』という概念がある。
・真実とは、感情の行く先のこと。それは複数の未来のケースが対立し、より強い感情が結果である。
そのためにあなたがするべきことは?
◆◇◆◇
(ふぅ……パズルのピースを、一つずつ埋めていくように……か……)
レナは、父が言っていたその言葉を思い出していた。四人がペンで答えていくにつれ、問いの内容は、心たちしか知り得ない最近の出来事にまで及んでいた。それはBRFのリサーチによるものだった。
心たちは、この試験の意図を理解した。BRFは自分たちの理解度を確かめるだけでなく、スイミーによる特訓を含め、その後に起きた出来事をBRFが既に把握していることを伝えると同時に、BRFと自分たちとの間で情報を共有するためのものなのだと。四人は、その意図を飲み込みながらペンを走らせるのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
試験終了後、心は久しぶりにレナの部屋へ遊びに行った。しかし内容はただのおしゃべりとは違い、日々の日常と非日常を生きる者たちの会話だった。
「咲さんとは、最近普段会ってたの?」
「いや、会ってなかったよ」
「レナもそうなんだ。そういえば問題の最後に『真実の収束点』とか書いてあったよね。『真実とは、感情の行く先』だって。それは卓越感情が強ければ強いほど、真実へたどり着けるってことだよな……つまり、強くなれってことだよね?」
「そうなるな。何かが起こった時、それは他のケースを淘汰した結果でもあると言ってたな」
「最近よく出くわすオミナス・ベイパーも、ひょっとしたら、誰かが、漆黒の書で何かをした結果なのかもしれないな」
「あるいは、漆黒の書が呼んでいる……とか?」
「マイナスなことが起ころうとしてるなら……それは、こちらとしては阻止しないといけない。私の個人的な目的はナオトくんの奪回だけど、結果的には進む方向は同じなのかも……どちらが先になるかはわからないけど」
「うむ、きっとそうなんだろうな!」
「卓越感情と漆黒の書は、対の関係にあるとも言ってたよね」
「あぁ、それを教えてくれたのは、スイミーだな」
レナが記憶をなぞるように続ける。
「自分の漆黒の書を獲得できれば、新たな能力を身につけることもできるって言ってたな。つまり、アグダラへの道の手掛かりになるってことだ」
「うん!最近は、少しずつ出くわす異変とか、合宿とか、私たち色々あったよな? 正直、日々の自分たちのことだけで精いっぱいだった。漆黒の穴ことも、いつかブラモンと会えればなんとかなると結構適当に考えてたかも……」
「そうだな。日々の鍛錬と同時に……『漆黒の書探し』の、同時進行も必要ってことか……」
レナは短く答えた。
「うん! 少し遅くなったけど、レナ、私たちも漆黒の書探しも始めよう」
「あぁ!」
こうしてようやく、心とレナも漆黒の書探しを意識することにしたのだった。
――続く




