23.青い閃光
江茂志市の夜空には、いつもと変わらず星々が瞬いていた。卓越感情を持たない普通の人々にとって、その夜もまた、何一つ変わらない日常の延長に過ぎない。住宅街のある家ではテレビの音が鳴り、帰宅途中の人々は足早に夜道を行き交い、誰一人として空を見上げる理由を持たなかった。江茂志市のほとんどの住人たちは、その異様な光景を認識せず、いつもと変わらない夜を何事もなく過ごすだろう。卓越感情を持たない人々の視界には、天を貫く、その『青い閃光』は存在していないのだから。
しかし心・レナ・ケイト・茜の目にはそれがはっきりと見える。それは、かつて向かったクレッシェンド山と双子山として対をなすもうひとつの山、ヤマンバ山の山頂付近から天に向かって放たれていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
BRFの会議室。心が二体のブラモンと接触した翌週の日曜の朝、心たちの元にBRFの咲から緊急招集の指示があったのだ。咲は会議室に入りスタスタと四人の前まで歩いてくると少し緊迫感を帯びた口調で喋り出した。
「わざわざ来てもらってすまなかったけど。定期的にあなたたちの『状態』を見る必要があるので来てもらいました。まずは身体の異常は無いようで、なにより……」
「え? なにも診察とかされてないけど……」
心が言った。
「ふむ。ドアを通り抜けると同時に身体に異常が無いかをチェックするシステムが整えられているのです……。それはもう終わりました。そして呼んだ理由がもうひとつあります」
「ん……?もうひとつ?」
レナが一度言葉を切り、まっすぐに咲を見据えた。
「単刀直入に伝えます。ヤマンバ山の異常、青いビームにはあなたたちも気づいているはず! すぐにヤマンバ山へ向かってください」
四人は既にこの日まで日々浸食するオミナス・ベイパーの現象に対する心の澱みが胸中にあったが、その指示を聞いた時、特にクレッシェンド山での赤いビームの記憶が鮮明な心は、この異変にふたたび胸騒ぎを覚えていた。
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指示通り、午前の内に青いビームの発生源に着いた心たち四人。ビームが天に向かって脈打つように輝くその発生源は、大きな石が山のように積まれていたものだった。周りは木々に囲まれているが、断層の壁に、木々で隠れているがひっそりと口を開けた『洞窟』のようなものを確認した。
四人はふと、大きな石の山の向こう側から聞こえる物音を聞いた。石の山を回り込んでみると、目に飛び込んできたのは、驚くべき光景だった。色こそ違えど、四人が良く知っている形の『ブラモン』が、石を積む作業をしている。その色は金色に輝いていた。
「ふぅ……今日は……これ位でいいか……」
「お、おい、あれは……!」
「あれって、ブラモンじゃないのか!!本物の!!」
「しかし、全然色が違うね……それに近くに穴も見当たらない……」
「そして……心が教えてくれた通り、喋る言葉が理解できるわ!!」
驚きながらも、金色であることが『神秘的』な印象を与えており、どう対応するべきか悩んだのはレナ・ケイト・茜だった。
しかし青空心にはそれは関係なく、躊躇もない。ブラモンはナオトを連れ去った敵だ。心が己の衝動に負け、その金色に輝く生命体に『突撃ハイキック』をお見舞いしようとするのも至極当然な行動だった。
「こんの野郎ぉぉーっ!!」
心が金色のブラモンへと走っていたその時。
「おい! お前!!」
その声と同時に青いビームが石の山に吸い込まれるように消えた。その向こう側に、ひっそりと口を開けた洞窟の奥から小さな人影が現れた。5、6歳位の男の子のように見える。神秘的で重々しい雰囲気を放つ青い法衣を着て、その大きな瞳には、まだ年端のいかない少年には不相応な、澱んだ暗い光が宿っていた。その少年は、両腕を後ろにまわした姿勢で、可愛いアニメキャラクターが走ってくるようにひょこひょことした足取りで金色のブラモンの横にやってきた。
「ぴょん。っと!」
心は、拍子抜けした声で、
「えっと……あなた……誰……?」
「やあ。お主らは、クレッシェンド山で赤いビームを見たな? そしてその波長を模倣してワシが作ったここの青いビームも。その波長は、卓越感情保持者だけが認識できるシーク波じゃ。だからお主らはここへ来た。そう!お主らを呼んだのはワシじゃ!そしてお前!そのブラモンはワシの友人だから手をだすんじゃない!」
見た目5歳位に見えるその少年は、少し乱暴な口調で偉そうに答えた。そして満足そうな笑みでこう言った。
「ブラモンが、友人……だと……?」
「お主ら、こっちおいで……」
少年はそういうと、先に洞窟の中へと入っていった。
「敵では……ないようだ。話だけは聞いてみよう!!」
レナがそういうと、心たち四人は、警戒しながら少し距離をとりつつ、そのあとをついていくことにした。
――続く
修正
小さな岩→大きな石




