15.神隠しの真相
「まず……これをみて欲しい」
そう言うと勘吉は、リモコンを再度受信機に向けてボタンを押した。会議室がフッと暗くなると、その上映が開始された。軽快なBGMのフェードインとともに、スクリーンに大きく字幕が現れ、英語の音声が喋った。
『BRF part1……What is the BRF?《ビーアールエフ ビーアールエフとは何か》』
心たちは眉を上げて画面を見つめた。心は机の上に置いた両手を拳にして縦に並べ、その上に顎を載せて観始めた。そのビデオが初見であったレナも、ただ腕組みをしながら観ている。ケイトは手を膝に載せ静観し、茜は組んだ膝の上に肘を置き、人差し指と親指で顎を摘んで観ていた。
『はぁ~ぃ♪ 皆さんこんにちは。私の名前は西条咲! このビデオの中では皆さんの水先案内人を務めます。よろしくお願いします。では、BRFとはなんぞや?っていうところから解説していこうと、思いまーす!!』
「うぉ! 咲さんだ! ……あ、ごめん……」
「(レナの知ってる人なんだ……)」
レナの口走った言葉を聞き、茜とケイトが、横目でレナを見て微笑んだ。心はそれを気にすることなく、黙って拳の上に顎に載せたまま映像を見続けた。咲が横に歩き、画面から見切れると、宇宙に浮かぶ地球の左半分が大きく右側に映し出された背景となり、前面に白抜き文字の極太フォントで『Earth』と表示された。
画面内に左から咲が再び登場し、咲の横にモニターが表示された。
『ちょっとぉ、これを見て欲しいの♪』
ナレーションの音像定位が咲の横に映るモニターからの音声へと切り替り、同時にモニターが画面一杯に拡大表示された。
『これから伝える事は……全て実際に起こった出来事である……!』
「!?」
そこで唐突に咲の口調が変わった。そこには、先ほどの勘吉が始めに言った言葉の様に強く訴えかけるようなものと共通する『重々しさ』があった。その変わり様に顔をしかめる心とレナ。ケイトと茜はその横で表情を変えず黙って聴き続けた。
『事実1。今から14年前、ある特殊な波長の宇宙線が地球の北半球をかすめた。その宇宙線は、多くの記録データを残すとともに、北緯30度より北にすむ全ての生物の体を『通過』した。これはBRF関係者の天文学者たちの研究により判明したことである』
「宇宙線……?」
心がまたもや顔をしかめて言ったが、その表情は興味の無さを表現していた。ケイトと茜は、勘吉が先ほど使ってよいと言われた目の前のノートにそれをメモした。特にその時の茜は、「宇宙の神秘にでも触れるのか?」と興味ありげに目を輝かせていた。
『事実2。その一年後、ある事件がこの江茂志市に起こった。記憶に残っている者もいるだろう……』
「神隠し事件のことだ……」
茜が呟き、ケイトも頷いた。そこで心とレナも真剣な表情になった。その事件は江茂志市ではわりと有名な話でニュースにもなった程で、根強く江茂志市住民たちの心に残っているのだ。映像内の咲は続ける。
『江茂志市神隠し事件……それは幼い少年少女たちが忽然といなくなる事件だったが容疑者は一人も現れず、未だ未解決の事件だ……』
「!!」
脳裏に、あの時連れ去られたナオトの姿が蘇った心は、それまでの姿勢から前のめりになった。他の三人は心の心情を察した。レナは目を瞑り、ケイトと茜は同情しつつ、注意深く聞いていた。茜の目の輝きは曇りへと変わった。
『勿論警察も自治体も動いた。そのような事件が再発しないように監視カメラの数もかなり増えた。しかし、それも虚しくその年は同じ事件は立て続けに起こるものの、突き止めることは出来なかった』
「あれで……警察が動いたとは思えないけどな!」
「……。」
咲によるナレーションの後、当時の警察についてダメ出ししたのは心だった。心は13年前、警察にありのままの出来事を伝えたが、誰も信じてくれなかった。そしてそれ以降、警察に頼ることを辞めたからだ。
『事実3。その事件は日本の江茂志市だけでの話ではない。日本では『江茂志市だけ』だったが、宇宙線が掠めた地域、北半球の八箇所の地域で多発した事件だ。被害の大きさ順では最大数の被害を受けたのはアメリカのミシシッピ州、次いでエジプト、インド……そして四番目がここ、日本の江茂志市だ』
「えっ……?」
「まぁ……宇宙線が掠めた全八箇所?の地域と事件が起きた場所が同じ?」
それが江茂志市に限らず、世界の数か所で同時に起こった事件であったことを、心は知らなかった。ケイトは宇宙線が掠めた地域の北半球の八箇所で起きた事件というその『一致』に驚いた。黙ってペンを走らせる茜。そこで勘吉がビデオを停止して言った。
「BRFという団体は、当初、事件の被害者となった少年少女の親族たちが興した私的な集まりに過ぎなかった。」
「ふぅん……」
「しかし団体が繁栄していくにつれ、その活動の中で、朝比奈グループの傘下企業の協力もあり、独自のIT技術も極限まで発展させ、いつしか世界が無視し得ない革新的な礎を築き上げた。その圧倒的技術力を背景に、BRFは巨大資本や各国政府とも密接な連携を持つに至り、今や要所に支部を置く世界規模の組織へと成長を遂げている。 だが、今なお秘密組織としての厳格な性質がその根底にある」
心が思わず声をあげる。
「へぇ……BRFってそんなに凄い組織なんだ!? ……あ、ごめん」
静かな会議室に響いた自分の声の大きさに気づき、心は小さく首をすくめた。その横で、茜が冷静に思考を巡らせて口を開く。
「それでも秘密組織ということは、IT技術で有名なのは表の顔ってことか」
「表の顔というか……まぁIT技術が優れているのは朝比奈グループ企業と共に活動しているからというのもあるがな」
勘吉がそう補足すると、朝比奈グループの令嬢であるケイトが、少し寂しそうな表情を浮かべて呟いた。
「わたし、それは知らなかったわ。父や母は何も教えてくれないし……」
「そうなんだ……ん~、はいはい!! でも! なんでこんな所に?」
心はケイトの事情に軽く相槌を打ちつつも、抑えきれない本来の疑問を勘吉にぶつけた。世界規模の凄い組織の支部が、なぜ自分たちの通う道場の地下にあるのか。
「こんなところで悪かったな! だから、言ってるだろうが。秘密組織だと…」
心の「こんなところ」という言葉のチョイスにカチンときたのか、勘吉は少し声を荒げてツッコミを入れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「話はまだまだ続くからな?」
勘吉が再びボタンを押すと、画面上の咲によるナレーションが喋りだす。
『BRFは、14年前の『宇宙線』と、その1年後の『神隠し』事件が、因果関係があるのではないかと仮説を立てた。事件は宇宙線がかすめた地域でのみ起こっているからだ』
「(因果関係……)」
場所は同じでも、宇宙の出来事と、どう考えても人の所業と思える神隠しにどのような因果があるのかと心たちには疑問だった。
『さらなる調査の為、世界の神隠しが起こった地域の八箇所に支部を建てた。その一つがここ、BRF日本支部!』
そして心たちが興味深く見続けていた画面が切り替わると次のタイトルが読み上げられた。
『BRF! part2 黒い生命体』
その言葉が発せられた途端、心の目つきが一段と鋭くなるのも無理もなかった。これからこのビデオはナオトくんをさらって行った得体の知れない憎き敵のことを伝えようとしているとわかったからだ。
(早く話せ!)
『我々BRFは、このあとおまえたちに見せる生命体のことをブラック・モンスター、略してブラモンと呼称している。進化の過程で様々な種が生まれたのだろう。しかしもとは同じ……黒い生命体!!』
(きた! 黒い生命体!!)
(ブラモン!?)
心は続きを期待したが、ケイトは息をのんだ。ブラモン……それはケイトが『能力』を授かった時に確かに本から聞こえた言葉の一つであり、茜が所持するその本と、BRFが関係していることに驚いたのだ。
――続く




