シリウスの過去
俺の人生はあの時、あの瞬間からモノクロだ。
『シリウス、母さんはな、ほんっとにキレイな竜なんだ。』
『大袈裟よ!』
そう母さんを自慢する父さんを照れながら母さんが父さんの頭をペシリと叩いた。いや、今思うとペシリって音じゃなくてベシンっていう痛そうな音だったな。
『あいたた。でもお前もとってもカッコイイぞ!俺の自慢の息子だ!』
そう言われて俺はとっても嬉しかったのをよく覚えている。
『新しい刑法に則り、貴方達を拘束する。』
軍人が俺たちの家に靴も脱がずに入ってきたときからこの幸せな家は壊された。
『大丈夫、大丈夫だからね。』
底冷えする床、風が吹き込む鉄格子、薄い服で母さんと一緒にいた。
『ガキを渡せ!』
いきなり、兵士が俺を連れ出した。
『あぁ、シリウス!』
ただでさえ少ない食べ物を俺に与えていたせいで母さんは本来の力を出せずに引き離された。
『金貨300枚!金貨400枚!………おおっと、金貨450枚で落札されました!』
台の上に乗せられ、鎖に手足をつながれながら、大人たちが俺を囲っていることが怖かった。母さんに、父さんに会いたかったけど…。
『この裏切り者が!』
『俺らの血をよくも汚したな!』
柱に括りつけられた父さんの死体に石を投げる光人たち。
『あんな巨大な生き物が私たちの中に紛れてたなんて。』
『大きな牙に、鋭い爪、硬い鱗に覆われた体。どれをとっても恐ろしいわ。』
あちこちボロボロになって倒れている母さんをヒソヒソと話し合う豪華な服を着たおばさんたち。
誰も俺たち家族を助けてくれる人はいなかった。
「うっ!」
鎖に繫がれながら飛んできたナイフが足にかすり傷ができた。
「はい!賭けは俺の勝ち!」
「くっそ!負けた!よくも避けやがってこのトカゲもどきが!」
「ぐっ!」
いつもこんな生活だ。見世物にされ、賭け事の道具にされ、失敗したら八つ当たりのサンドバックにされる。
「さっさとこれ食ってあっちいけ!」
「はい。」
硬いパンだけを投げ渡されて、蹴られながら足の鎖を引きずって寝床に行く。
「父さん、母さん。」
横になり、芸のために使えるからと唯一残った形見を握って暗い空間に呟いた。
「おい。」
いきなり呼ばれた。そこには黒い闇に紛れるように一人の男が佇んでいた。俺はその男が死神に見えた。
「力があるくせになぜ、その鎖を壊さない。」
俺が握っている父さんと母さんがくれた形見の星が光る夜空のような水晶を指す。水晶の扱いは知っている。魔法を出したり、武器を出せる触媒だ。
「鎖を壊しても、家も、居場所も、飯も、何もないからだ。」
「自由になる気はないのか?」
「自由になって何になるんだ。父さんも母さんもこの世にいない。生きていてなんになる。」
かっこよかった父さんも優しかった母さんもいない。誰も俺たちを助けてくれなかった。誰もが虐げて、見下して、貶して、玩具にして、見世物にして、嗤うだけだった。
「見てないだけ、知らないだけだ。お前は。世界の広さを、人の多様さを見てみろ!そして知れ。自分の周りを見渡してみろ。」
それだけ言って、死神は去っていった。自分の周りを見渡しても同じ混血種たちが入った檻くらいしかない。




