幕間 桂雲田の高座
カラベラの広場に、久しぶりに、桂雲田の高座が設けられた。
「えー、本日は、皆様におかれましては、ご機嫌よう」
芝居がかった口上と共に、桂雲田は、集まった人々を前に、静かに語り始めた。
「昔々、あるところに、それはそれは弱い水夫がおりました」
「知ってるぞー、その話!」
観客のひとりが、茶々を入れる。桂雲田は、にやりと笑いながら続けた。
「まあまあ、最後まで聞いてくだされ。この水夫、剣も持てず、櫂も漕げず、艦隊の中でも、一番の役立たずと言われておりました」
「今じゃ考えられねえなあ」
「ところがどっこい、この水夫、たったひとつだけ、誰にも真似できない技を持っておりました。それが――道具を、とことん理解し、磨き上げる技」
桂雲田は、身振り手振りを交えながら、これまでの蓮の旅路を、面白おかしく、それでいて、確かな敬意を込めて語り続けた。
錆びた小刀、朽ちた小舟、老朽化した大砲。海賊王ダゴールとの決戦。カラベラを救った、あの防衛戦。五大海洋勢力の統合。未知の大陸文明との邂逅。そして――大渦潮での、大きな真実。
「この水夫、どれだけ功績を積んでも、こう言い続けたそうです。『俺は何もしてません。強かったのは、こいつです』とね」
「言いそうだなあ、あの人」
観客たちから、温かい笑い声が起こる。
「けれど、皆さん。この言葉、ただの謙遜だったのでしょうか。私は、そうは思いません」
桂雲田は、静かに、しかし確かな重みを込めて続けた。
「この水夫が本当に強かったのは、道具を理解する力だけじゃない。出会った人々を、決して裏切らず、決して見捨てなかった、その心にこそ、本当の強さがあったのではないでしょうか」
広場に集まった人々が、静かに、その言葉に耳を傾けていた。
離れた場所で、その様子を見ていた蓮は、少し照れくさそうに、それでいて、確かな温かさを胸に、静かに微笑んでいた。
「相変わらず、大袈裟に語りますね、桂雲田さんは」
蓮が、隣に立つイザベラに、そっと呟く。
「いいじゃないか」
イザベラは、静かに笑いながら答えた。
「あの語りのおかげで、お前の想いが、こうして、多くの人々の心に、確かに届いている」
蓮は、静かに、その言葉を噛みしめた。




