第76話 凪の日
最終決戦から一年が経った、ある穏やかな日のことだった。
カラベラの港では、蓮たちが辿ってきた長い旅路を振り返るように、静かな、しかし温かな時間が流れていた。
「蓮、ちょっと来てみろ」
ドルシスの船大工小屋から、興奮した様子でガイウスが飛び出してきた。
「どうしたんですか」
蓮が駆けつけると、そこには、ドルシスとゴンザが、何かを丁寧に組み上げている姿があった。
「これを、見てほしい」
ドルシスが、静かに、しかし確かな期待を込めて、蓮を手招きした。
作業台の上には、あの、渦潮の最深部で失われたはずの――機巧鳥ゼロ号の機体が、丁寧に修復されつつある姿があった。
「これは……!」
「大渦潮での戦いの後、損傷した機体を、少しずつ、修復してきたのです」
ドルシスが、静かに説明した。
「失われた文明の技術については、あの機巧文明――賢者機構からも、多くの助言をいただきました」
「んだ。わしも、材木だけでねぐ、金属の扱いも、だいぶ勉強したっす」
ゴンザも、誇らしげに続けた。
蓮は、静かに、しかし込み上げる感情を抑えながら、修復されつつあるゼロ号の機体に、そっと触れた。
「これなら……」
蓮は、静かに、これまでの旅路すべてを通じて培ってきた、理解と強化の力を、丁寧に、丁寧に、注ぎ込んでいった。
――目を覚ましてくれ。もう一度、俺たちと共に。
その願いに応えるように、ゼロ号の機体は、静かに、しかし確かな光を帯び始めた。
『……起動、確認』
その声に、蓮は、思わず涙を滲ませた。
「ゼロ号……!」
『蓮殿。ただいま、戻りました』
機巧の瞳が、静かに、しかし確かな輝きを取り戻していく。
「よく、戻ってきてくれた」
蓮は、静かに、しかし深い喜びを込めて、ゼロ号を抱きしめた。
***
その日の夕方、カラベラの港には、これまでの旅路を共にしてきた、すべての仲間たちが、静かに集まっていた。
イザベラ、ガイウス、ヴェルミナ、ドルシス、鬼灯、獅堂グレン、紅蓮、シズカ、ゴンザ、ボンゾウ、タケルとジロウ、桂雲田、そして、蘇ったゼロ号。
「今日は、いい日だな」
イザベラが、静かに、しかし穏やかな笑みを浮かべながら言った。
「はい」
蓮も、静かに頷いた。
「これまで、本当に、色々なことがありました」
「これからも、色々あるだろうさ」
ガイウスが、豪快に笑いながら言った。
「だが、それも、悪くねえ」
紅蓮も、静かに、しかし温かく続けた。
「島嶼連合も、これからの世界を、共に支えていくわ」
シズカも、穏やかに微笑んだ。
「教団もまた、この均衡を、これからも見守り続けます」
蓮は、静かに、集まった仲間たちの顔を見渡した。
甲板の隅で震えていた、最下級の水夫。誰にも認められず、自分自身を認めることもできなかった、あの日の自分。
そこから、こんなにも遠くまで、来ることができた。
穏やかな凪の海を眺めながら、蓮は、静かに、深い感謝の想いを噛みしめていた。
だが、この物語の、本当の終わりは、まだ、もう少し先にあった。




