第68話 イザベラの覚悟
最終決戦を前にした夜、蓮は、白鯨号の甲板で、ひとり静かに、これまでの旅路を振り返っていた。
「蓮」
声をかけてきたのは、イザベラだった。
「イザベラさん」
「少し、話したいことがある」
イザベラは、静かに、蓮の隣に腰を下ろした。
「明日、私たちは、これまでで最大の脅威と対峙することになる。この戦いが、どのような結末を迎えるか、正直、私にも、確かなことは言えない」
「はい」
「だからこそ、今のうちに、伝えておきたいことがある」
イザベラは、静かに、しかし真剣な眼差しで、蓮を見つめた。
「私は、あの無人島から、お前を拾い上げたときから、ずっと、お前のことを見てきた。最初は、ただの、不思議な力を持つ水夫だと思っていた」
「はい」
「だが、今は違う」
イザベラの声に、これまでにない、深い温かさが滲んだ。
「お前は、私にとって、かけがえのない存在になっている。船長としてだけでなく、一人の人間として、お前のことを、心から大切に思っている」
蓮は、静かに、その言葉を受け止めた。
「イザベラさん、俺も……」
「わかっている」
イザベラは、静かに微笑んだ。
「言葉にしなくても、伝わっている。だからこそ、明日の戦いが、どんな結末を迎えようとも、私は、後悔しないと決めている」
「イザベラさん……」
「お前と共に、この世界の均衡を守るために戦えること。それ自体が、私にとって、誇りだ」
イザベラは、静かに、しかし確かな決意を込めて続けた。
「だからこそ、明日は、私も、全力で戦う。船長として、そして――お前の隣に立つ者として」
蓮は、静かに、深く頷いた。
「俺も、全力を尽くします。イザベラさんと、皆と一緒に」
二人は、しばらくの間、言葉少なに、それでいて確かな温もりを分かち合いながら、静かな夜の海を見つめ続けていた。
***
同じ頃、白鯨号の別の場所では、ガイウス、ドルシス、獅堂グレン、ヴェルミナ、そして、鬼灯やゴンザ、ボンゾウたちも、それぞれの想いを胸に、静かに、明日への備えを整えていた。
「明日は、これまでで一番の大戦になりそうだな」
ガイウスが、剣の手入れをしながら、静かに呟いた。
「だが、俺たちなら、きっと乗り越えられる」
ドルシスも、静かに、しかし確かな決意を込めて頷いた。
「蓮殿が、これまで積み重ねてきたもの――それは、私たち皆の想いでもあります」
鬼灯もまた、静かに、決意を新たにしていた。
「今度こそ、俺は、蓮の役に立ちたい」
その言葉には、これまでの因縁を乗り越えた、確かな覚悟が込められていた。
夜が更けるにつれ、白鯨号全体が、明日への静かな、しかし確かな決意に包まれていった。
世界の在り方そのものを賭けた、最後の戦いの夜が、こうして、静かに、しかし確実に、更けていった。




