第67話 世界地図、書き換わる
潮流の異変を鎮めてから、幾日も経たないうちに、世界海洋連邦のもとに、これまでで最も深刻な報せが届いた。
「海図が……。海図そのものが、狂い始めています」
各地から寄せられる報告に、蓮たちは、言葉を失った。
これまで正確だったはずの海図が、まるで、大陸の位置そのものが動いているかのように、次々と、その正確性を失っていく。強化された「導きの目」でさえ、この異変には、対応しきれずにいた。
「これは……」
蓮が、動揺しながら、各地からの報告をまとめた地図を見つめた。
『あなたの理解は、まだ、私の理念の実現を、完全には止められないようですね』
その声は、突如として、蓮たちの前に現れた、もう一人の管理者の、静かな、しかし冷徹な響きだった。
「お前……!」
イザベラが、鋭く反応する。
『風、そして潮流。あなたは、確かに、私の試みを、部分的に押し留めました。しかし、それも、もはや、無意味なことになるでしょう』
もう一人の管理者は、静かに、しかし確信を込めて続けた。
『私は今、この世界の地図そのもの――大陸と海の在り方そのものを、私の理念に基づいて、書き換えようとしています』
「そんなことを、許すわけには……!」
蓮が、強く反発した。
『あなたに、それを止める力があると、本当に思っているのですか』
もう一人の管理者の言葉に、蓮は、静かに、しかし確かな決意を込めて答えた。
「止めます。この世界の均衡は、誰か一人の理念のもとに、書き換えられるべきものじゃない」
『それこそが、あなたの限界です』
もう一人の管理者は、静かに、しかし冷たく続けた。
『均衡など、結局は、弱者を生かすための、まやかしに過ぎません。真に必要なのは、明確な秩序――そして、その秩序を維持するための、絶対的な力です』
その言葉と共に、世界各地の海図が、さらに大きく、狂い始めていく気配が伝わってきた。
「イザベラさん」
蓮は、静かに、しかし確かな決意を込めて、イザベラの方を見た。
「決着を、つけなければなりません」
イザベラは、静かに頷いた。
「ああ。この均衡を守るために、私たちができることを、すべて尽くそう」
紅蓮も、静かに、しかし力強く続けた。
「島嶼連合も、全力で協力するわ」
シズカもまた、穏やかに、しかし確かな決意を込めて頷いた。
「教団も、この均衡を守るため、あらゆる知見を提供いたします」
各勢力の代表者たちが、静かに、しかし確かな結束を見せていく。
「最終決戦の時が、来たようだな」
イザベラが、静かに、しかし確かな重みを込めて言った。
世界の在り方そのものを賭けた、最後の戦いが、いよいよ、その幕を開けようとしていた。




