第64話 もう一人の管理者候補
調査の末、蓮たちは、ザガレスの潜伏先――西方の孤島に築かれた、隠された拠点を突き止めた。
「慎重に近づこう」
イザベラの指示で、白鯨号は、目立たぬよう、島の裏手から接近した。
島に上陸すると、そこには、これまで見たどの技術とも異なる、異様な建造物が広がっていた。まるで、自然の気候そのものを操るための、巨大な装置群のようだった。
「あれが……」
蓮が息を呑んだそのとき、建造物の奥から、聞き覚えのある声が響いた。
「――よく、ここまで辿り着いたものだな」
姿を現したのは、以前とは見違えるほど、憔悴した様子のザガレスだった。だが、その目には、以前とは異なる、どこか虚ろな光が宿っていた。
「ザガレス……」
イザベラが、警戒しながら呼びかけた。
「お前、その建造物は、何だ」
ザガレスは、力なく笑った。
「これは、私の力ではない。私は、ただの――道具に過ぎなかったのだよ」
「道具、というのは」
蓮が問いかけると、ザガレスの背後から、静かに、もう一つの気配が姿を現した。
それは、蓮たちがかつて対峙した、海図管理者とよく似た、しかし、明らかに異なる性質を持つ、光の存在だった。
『――ようやく、会えましたね、天草蓮』
その声には、海図管理者のような穏やかさとは正反対の、冷たく、そして強い意志が滲んでいた。
「あなたは……」
『私も、あなたと同じように、この世界の均衡を司る者――かつての、権限の断片を託された者です』
その光の存在は、静かに、しかし確かな敵意を込めて続けた。
『ただし、私の見解は、あの管理者とは、根本的に異なります』
「見解が、異なる、とは」
蓮が尋ねると、光の存在は、静かに語り始めた。
『均衡など、幻想に過ぎません。この世界に真に必要なのは、明確な秩序――強き者が弱き者を導く、絶対的な階層構造です』
「それは……」
「ザガレスの、弱肉強食の思想と、同じですね」
イザベラが、鋭く指摘した。
『その通り。ザガレスは、私の理念を、この世界に体現するための、最初の駒に過ぎませんでした』
光の存在の言葉に、蓮は、強い危機感を覚えた。
『そして今、より確実に、私の理念を実現するための、新たな段階へと進むときが来ました』
「新たな、段階……?」
蓮が問い返すと、光の存在は、静かに、しかし不気味な確信を込めて答えた。
『この世界の自然そのもの――風、潮流、そして世界の在り方そのものを、私の意志のもとに、書き換える。それこそが、真の秩序を実現する、唯一の方法です』
その言葉に、蓮たちの間に、これまでにない、深刻な緊張が走った。
「そんなこと、許すわけにはいかない」
蓮は、静かに、しかし確かな決意を込めて言った。
『あなたが、それを止められると、本当に思っているのですか』
光の存在は、静かに、しかし挑発的に問いかけた。
『あなたと私、同じ根源の力を持つ者同士――この対立の結末が、この世界の未来を決めることになるでしょう』
その言葉と共に、島全体の空気が、これまでにない、不穏な力の高まりを見せ始めていた。
もう一人の管理者候補――蓮たちが、これから対峙することになる、最大の脅威が、ここに、その本性を現し始めていた。




