第63話 管理者の警告
帰還から数日後、シズカが、緊迫した表情で、白鯨号を訪ねてきた。
「教団の各地の拠点から、奇妙な報告が相次いでいます」
シズカは、慎重に、集めた情報を蓮たちに伝えた。
「西方の複数の島々で、原因不明の異常気象が発生しています。それも、これまでの自然現象とは、明らかに性質の異なるものです」
「異常気象、ですか」
蓮が尋ねると、シズカは頷いた。
「はい。まるで、誰かが、意図的に、気候そのものを操作しているかのような」
その言葉に、蓮の脳裏に、海図管理者の警告が蘇った。
――この世界には、あなたと同じように、私の権限の断片を託された可能性を持つ者が、他にも、存在するかもしれません。
「もしかして……」
「私も、同じことを考えました」
シズカが、真剣な表情で続けた。
「もし、あなたと同じような力を持つ者が、悪意を持ってそれを使っているとしたら――この世界の均衡は、大きく脅かされることになります」
イザベラが、険しい表情で腕を組んだ。
「情報を集めよう。まずは、異常気象が発生している地域の実態を、詳しく調べる必要がある」
***
数週間の調査の末、蓮たちは、異常気象の背後に、ある共通の情報を見出した。
「これらの地域はすべて、ある人物の影響下にある地域と、重なっています」
ヴェルミナが、集めた資料を示しながら告げた。
「その人物とは……」
「元大陸総督、ザガレス」
ヴェルミナの言葉に、蓮たちは息を呑んだ。
「ザガレスは、失脚後、表舞台からは姿を消していました。ですが、水面下で、独自の勢力を再構築していた可能性があります」
「まさか、あの人が、俺と同じような力を……」
蓮が呟くと、イザベラが、静かに首を振った。
「いや、おそらく、そうではない」
イザベラは、慎重に続けた。
「ザガレスは、あくまで、野心的ではあっても、これまで、超常的な力を示したことはなかった。だとすれば――」
「ザガレスの背後に、真の黒幕が存在する、ということですね」
蓮が続けると、ヴェルミナは頷いた。
「その可能性が高い。ザガレスは、表舞台に立つための、いわば『駒』に過ぎなかったのかもしれない」
その考察に、蓮たちの間に、新たな緊張が走った。
「調べる必要がある」
イザベラが、決然とした表情で言った。
「ザガレスの現在の所在、そして、彼の背後にいる、真の黒幕の正体を」
こうして、蓮たちは、再び、大きな脅威との対峙に向けて、動き出すこととなった。世界海洋連邦の均衡を守るための、最後にして最大の戦いが、静かに、その足音を近づけ始めていた。




