幕間 ゼロ号、記憶の断片
夜の甲板で、蓮の肩に止まったまま、ゼロ号は、静かに、自らの内に眠る、断片的な記憶を辿っていた。
『……古い記憶が、時折、蘇ります』
ゼロ号が、静かに、蓮に語りかけた。
「どんな記憶なんだ?」
蓮が、興味深そうに尋ねると、ゼロ号は、静かに続けた。
『大きな、静かな場所。そこには、私と同じような個体が、幾つも並んでいました』
「同じような個体……」
『そして、誰かの声が、聞こえた気がします。「これより、外洋探査任務を開始する」と』
ゼロ号の声には、どこか、懐かしさと、そして、微かな寂しさが滲んでいた。
『私は、その任務の途中で、何らかの事故に遭い、長い間、海の底に沈んでいたのでしょう』
「そうか……」
蓮は、静かに、ゼロ号の言葉に耳を傾けた。
『蓮殿に発見していただかなければ、私は、あのまま、永遠に、海の底で眠り続けていたのかもしれません』
「見つけられて、良かったよ、本当に」
蓮は、静かに、ゼロ号に触れた。
『私も、そう思います』
ゼロ号の声には、静かな、しかし確かな温かさが宿っていた。
『この記憶の断片が、いずれ、この世界の、より大きな真実へと繋がっていく予感がします』
その言葉に、蓮は、静かに、緊張と、そして、確かな決意を新たにした。
「その真実が何であれ、俺は、お前と共に、向き合っていくよ」
蓮の言葉に、ゼロ号は、静かに、しかし確かに、羽を震わせた。
この夜の対話が、やがて訪れる、大渦潮での、大きな真実への、静かな序章となっていくことを、この時の二人は、まだ、正確には知らなかった。




