第51話 大陸文明との激突
海流航法の確立により、艦隊は驚くべき速さで大陸奥地へと近づいていった。
「見えてきたぞ……」
見張り台からの報告に、甲板の全員が息を呑んだ。水平線の彼方に、これまで見たどの都市よりも巨大で、精緻な建造物群が姿を現していた。
「あれが、失われた文明の中枢……」
イザベラが、畏敬の念を込めて呟いた。
だが、その荘厳な光景とは裏腹に、艦隊が近づくにつれ、これまでとは比較にならない規模の防衛機構が、次々と姿を現し始めた。
「数が、多すぎる……!」
ガイウスが、押し寄せる機巧の兵器群を前に、思わず声を上げた。海上を埋め尽くさんばかりの機巧の艦船、そして、これまで戦った巨人よりも遥かに巨大な、要塞のような機巧兵器が、艦隊の行く手を阻んでいた。
『警告します。この規模の防衛機構、通常の戦力では、突破は困難です』
ゼロ号が、緊迫した声で告げた。
「退くべきか」
イザベラが、苦渋の表情で呟いた。だが、獅堂グレンが、静かに首を振った。
「いや、ここで退けば、二度とこの文明の真実には辿り着けまい」
「では、どうすれば」
「蓮、お前の力に、賭けるしかない」
獅堂グレンの言葉に、蓮は緊張しながらも、頷いた。
「これまでの理解を、すべて注ぎ込みます」
蓮は、艦隊の艦砲すべてに、これまでで最も深い理解を注ぎ込む決意をした。単なる威力の向上ではなく、この文明の防衛機構そのものへの理解――これまで蓄積してきた、機巧技術に関するあらゆる知識を、総動員する必要があった。
「ゼロ号、お前の記憶の中に、何か手がかりはないか」
『私の記憶、断片的ではありますが、この防衛機構の弱点らしきものを、感じ取ることができます』
ゼロ号は、蓮に向けて、機構の弱点についての情報を、次々と伝え始めた。防衛システムの中枢を制御する、特定の周波数を持つ紋章の存在。そこを正確に狙い撃つことができれば、システム全体の機能を、大幅に低下させられる可能性があるという。
「わかった。やってみる」
蓮は、艦隊の主砲――旗艦白鯨号の中央に据えられた、最も強力な一門に、全神経を集中させた。
――この防衛機構の仕組みを、完全に理解させてくれ。そして、その中枢を、確実に貫く力を与えてくれ。
かつてない集中の末、蓮は、これまでのどの強化よりも深い理解に到達した感覚を得た。
「照準よし! 発射します!」
轟音と共に放たれた一撃は、これまでのどの砲撃とも一線を画す威力を持っていた。砲弾は、機巧兵器群の隙間を正確に縫うように飛翔し、防衛機構の中枢――巨大な要塞の中心部を、深々と貫いた。
『中枢機能、停止確認……』
ゼロ号の声と共に、周囲の機巧兵器群が、次々と動きを止めていった。
「効いた……! 効いたぞ!」
甲板から、歓喜の声が上がる。だが、イザベラは、まだ油断せず、周囲を警戒し続けていた。
「まだだ。これで、すべてが終わったわけじゃない」
その言葉通り、要塞の奥から、これまでとは異なる、新たな存在の気配が、静かに立ち昇り始めていた。
『……侵入者、確認。しかし、これまでの排除対象とは、異なる反応を検出』
要塞の中心から響いてきた声は、これまでのどの機巧の声とも違う、深みと知性を感じさせるものだった。
「これは……」
蓮は、その声に、これまでにない緊張を覚えた。
失われた文明との、本当の意味での邂逅は、まだこれからだった。




