第49話 旗艦、限界突破
獅堂グレンを案内役に加えた艦隊は、大陸の奥地――失われた文明の中枢があるとされる場所を目指し、探索を進めていった。
「奥地へ向かうには、まだ広大な海域を渡る必要がある」
獅堂グレンが、手製の地図を広げながら説明した。
「この大陸は、いくつもの島々が複雑な海流で隔てられている。中枢部に辿り着くには、通常の航海術では、何ヶ月もかかるだろう」
「何ヶ月、ですか……」
蓮は、艦隊の食料事情を思い浮かべ、顔を曇らせた。
「時間を短縮する方法が、必要だな」
イザベラが、蓮の方を見た。
「蓮、旗艦の性能を、さらに引き上げることはできるか」
「これまで以上に、ですか」
蓮は、白鯨号――今や、艦隊の旗艦としての役割を担うようになったこの船を、改めて見つめた。
「やってみます。ただ、これまでとは、また違う種類の理解が必要になるかもしれません」
蓮は、旗艦の帆走性能について、改めて深く考え込んだ。これまでの強化は、船体の頑丈さや、速度の向上が中心だった。だが、風のない海域や、複雑な海流を突破するには、また別のアプローチが必要になる。
「風そのものを、味方につけられないだろうか」
蓮は、ふと、そんな考えに至った。
『蓮殿、興味深い着想です』
ゼロ号が、蓮の肩の上で反応した。
『帆の形状、素材、そして風を受ける角度――それらを極限まで理解し、最適化すれば、あるいは』
蓮は、ゼロ号の助言を受けながら、帆と索具の構造を、これまで以上に深く観察し始めた。
***
数日にわたる集中的な作業の末、蓮は、旗艦の帆走機構についての、これまでにない深い理解に到達した。
「これなら、いけるかもしれません」
蓮は、白鯨号のマストと帆に、そっと両手を添えた。
――風のない海でも、あらゆる海流の中でも、常に最適な推進力を生み出せる帆になれ。風そのものの流れを、読み解き、味方につけろ。
これまでで最も高度な願いを込めて念じた瞬間、白鯨号全体が、これまで見たことのない、複雑で美しい光の紋様に包まれた。
光が収まったとき、白鯨号の帆は、以前とはまったく異なる、精緻な織り目を持つ帆へと変貌していた。
「試しに、出港してみましょう」
蓮の提案で、艦隊は、あえて無風の海域を選び、白鯨号の性能を試すこととなった。
「風は、まったくない、な」
イザベラが、静かな海面を見つめながら呟いた。
だが次の瞬間、白鯨号は、まるで強い追い風を受けているかのように、猛烈な速度で滑り出していった。
「な……! 何が起きている……!?」
操舵手が、驚愕の声を上げる。
「これは……」
獅堂グレンでさえ、目を見張る速度だった。
「風がなくても、これほどの速度が出せるのか……!」
白鯨号は、これまでの常識を遥かに超える速度で、大海原を疾走していった。まるで、船そのものが、風を生み出しているかのような、異様な光景だった。
「この速度なら、大陸奥地までの航海期間を、大幅に短縮できます!」
ヴェルミナが、興奮気味に計算を弾き出した。
「これまで数ヶ月かかると見積もっていた行程が、これなら、数週間程度にまで縮まるでしょう」
イザベラは、満足げに頷いた。
「よくやった、蓮」
「はい……! でも、まだ限界まで理解しきれたわけじゃないかもしれません。もっと突き詰めれば――」
蓮の言葉に、獅堂グレンが興味深そうに笑った。
「面白い男だな、お前は。まだ上があると思っているのか」
「はい。この力には、まだまだ、俺の理解が追いついていない部分が、たくさんあると思うので」
その言葉通り、蓮の探究心は、留まることを知らなかった。旗艦の限界突破という大きな成果を得ながらも、蓮の目は、すでにその先――さらなる可能性へと向けられていた。




