幕間 ヴェルミナの記録
ヴェルミナは、海洋均衡協定締結の夜、自室でひとり、これまでの記録を整理していた。
『五大海洋勢力統合構想、正式に締結。この日をもって、七つの海における、新たな均衡の時代が始まる』
ヴェルミナは、そう書き記しながら、静かに、これまでの道のりを振り返った。
大商会艦隊を離れた理由――合理性を欠いた内部抗争への嫌気。だが、今にして思えば、あの内部抗争もまた、均衡というものの難しさを、身をもって教えてくれた経験だったのかもしれない。
『天草蓮という男については、当初、懐疑的な見方をしていたことを、正直に記しておく』
ヴェルミナは、静かに、ペンを走らせ続けた。
『理論として成立しない力を、私は信じない――そう思っていた。だが、彼の力は、明確な法則性と、そして、確かな誠実さに裏打ちされたものであった』
『合理性と、誠実さ。この二つは、時に対立するものと思われがちだが、蓮という男は、その両立が、決して不可能ではないことを、証明してくれた』
ヴェルミナは、静かに、手記を閉じた。
「これからも、この均衡を、合理的に、そして、誠実に、支え続けていかなければならないな」
窓の外に広がる、静かな夜の港を見つめながら、ヴェルミナは、これからの航海への、確かな決意を、静かに新たにしていた。




