第40話 私掠船同盟の統合
島嶼連合との協力関係を成立させた白鯨号は、次なる目標――私掠船同盟の統合に向けて動き出した。
「私掠船同盟は、正直、一筋縄ではいかない相手だ」
イザベラは、航海の道中、蓮たちに事情を説明した。
「王国から免状を受けた私掠船たちが、緩やかに連携している組織だが、実態は荒くれ者の集まりに近い。統一された指導者もおらず、力こそが物を言う世界だ」
「力が物を言う、というと」
蓮が尋ねると、イザベラは苦笑した。
「私掠船同盟の中で発言力を持つには、実力で認められる必要がある、ということだ。単に交渉しに行っても、相手にされない可能性が高い」
ヴェルミナが、地図の一点を指し示した。
「同盟の主だった拠点は、この『鉄火の泊地』と呼ばれる港だ。荒くれ者たちが集う、無法地帯に近い場所だと聞く」
「そんなところに、乗り込むんですか」
「他に方法はない」
イザベラは、覚悟を決めた表情で頷いた。
***
鉄火の泊地に到着すると、そこは噂に違わぬ、荒々しい空気に包まれた場所だった。粗野な水夫たちが、あちこちで酒を酌み交わし、時折怒声や笑い声が響いている。
「おい、見ねえ顔だな」
白鯨号の一行に気づいた、屈強な男が近づいてきた。
「私は白鯨号船長、イザベラ・デ・ヴァルモンド。同盟の主だった方々と、話をさせていただきたい」
「白鯨号だと? ああ、あの海賊王ダゴールを討った船か」
男の表情に、興味と警戒が入り混じった色が浮かんだ。
「話は聞こうじゃねえか。だが、この泊地じゃ、言葉だけじゃ誰も信用しちゃくれねえぜ」
「どういうことでしょうか」
蓮が尋ねると、男はニヤリと笑った。
「同盟の連中を納得させたきゃ、こっちの流儀に付き合ってもらう。腕試しだ」
その言葉に、ガイウスが一歩前に進み出た。
「面白い。俺が受けて立とう」
「おいおい、剣自慢か? 生憎、こっちにも腕自慢は掃いて捨てるほどいるぜ」
こうして、鉄火の泊地の広場で、ガイウスと同盟の荒くれ者たちによる、即席の腕試しが行われることとなった。
ガイウスの規格外の剣技は、瞬く間に、集まった荒くれ者たちを圧倒していった。
「な、なんて腕前だ……!」
「こいつは、本物だ」
次第に、周囲の空気が変わっていくのがわかった。荒くれ者たちの間に、確かな敬意の色が浮かび始めていた。
「腕は認めよう」
先ほどの男が、真剣な表情で言った。
「だが、それだけで、同盟全体が動くわけじゃねえ。話の中身も聞かせてもらおうか」
こうして、ようやく本格的な交渉の場が設けられることとなった。イザベラは、五大海洋勢力統合の構想を、丁寧に、しかし力強く語っていった。
「弱肉強食のこの海で、俺たちが誰かと手を組む理由なんざねえ」
同盟の代表格らしき老練な男が、懐疑的な視線を向ける。
「本当に、そうでしょうか」
蓮が、思わず口を開いた。
「第二、第三のザガレスが現れたとき、あなた方の同盟だけで、本当に対抗しきれますか」
その言葉に、一瞬、場が静まり返った。
「小僧、随分と口が回るじゃねえか」
「すみません。でも、俺は、力のない者が大きな野心に踏みにじられる現場を、何度も見てきました。同盟の皆さんも、いずれ、そうした脅威と無縁ではいられなくなるかもしれません」
蓮の言葉に、老練な男は、しばし考え込んだ。
「……確かに、一理あるな」
長い沈黙の後、男は静かに頷いた。
「いいだろう。少なくとも、話し合いのテーブルにはつこうじゃねえか」
こうして、荒くれ者揃いの私掠船同盟もまた、実力と誠実な言葉を通じて、統合構想への協力を検討することとなった。統合への道は、着実に、しかし決して平坦ではない道のりを、一歩ずつ進んでいった。




