第39話 島嶼連合との和解
紅蓮との対話から数日、本格的な協力関係の構築に向けた話し合いが、島嶼連合の議場で始まった。
「五大海洋勢力の統合、か」
紅蓮は、ヴェルミナが示した構想を聞き、しばし考え込んだ。
「野心的な話ね。だけど、悪くないとも思うわ」
「賛同いただけますか」
イザベラが尋ねると、紅蓮は静かに頷いた。
「島嶼連合だけでは、大国の野心を防ぎきれないことは、これまでの歴史が証明しているわ。もし、他の勢力と手を取り合うことで、二度と故郷を失う者が出ないようにできるのなら――協力する価値はあるでしょう」
「ありがとうございます」
蓮が頭を下げると、紅蓮は少し困ったように笑った。
「礼を言うのは、まだ早いわ。連合内には、王国や商会に対する根深い不信感を持つ者も多い。一朝一夕に、すべてが変わるわけではないから」
「それでも、始めなければ、何も変わりません」
蓮の言葉に、紅蓮は興味深そうな視線を向けた。
「あなた、本当に不思議な人ね。自分の力には自信がなさそうなのに、こういう場面では、驚くほど真っ直ぐなことを言う」
「そう、でしょうか」
蓮は照れくさそうに頭を掻いた。
***
その後、紅蓮は島嶼連合の主だった長老たちを集め、白鯨号との協力について、時間をかけて説得を続けた。
「王国の犬どもと、手を組むというのか!」
反発する長老の声に、紅蓮は毅然と答えた。
「私たちが手を組むのは、王国そのものではない。この海の均衡を守ろうとする、志を同じくする者たちよ」
紅蓮は、蓮たちがカラベラで見せた行動、そしてザガレスの野心を退けた経緯を、丁寧に説明していった。
「この者たちは、少なくとも、弱き者を踏みにじる側にはいない。それだけは、私が保証するわ」
紅蓮の言葉には、これまでの彼女らしくない、明確な信頼の色が滲んでいた。長老たちの間にも、少しずつ、態度の変化が見え始めていた。
数日にわたる議論の末、島嶼連合は、正式に五大海洋勢力統合構想への参加を決定した。
「これで、一つ目の勢力との協力関係が結ばれたな」
イザベラが、安堵の表情を浮かべた。
紅蓮は、蓮に向き直り、静かに言った。
「蓮、あなたには、感謝しているわ」
「え、俺は、そんな大したことは……」
「またその癖ね」
紅蓮は、呆れたように、それでいて優しく笑った。
「あなたが真っ直ぐに想いを伝えてくれたから、私も、長老たちを説得する決心がついたのよ。もっと、自分の力を認めてもいいと思うわ」
「……ありがとう、ございます」
蓮は、少し戸惑いながらも、素直に礼を言った。
「これからも、よろしく頼むわ、蓮」
紅蓮は、そう言って、蓮に手を差し伸べた。蓮はその手を、しっかりと握り返した。
こうして、島嶼連合という、これまで最も対立が深いと思われていた勢力との和解が成った。五大海洋勢力統合という、壮大な構想の実現に向けて、確かな一歩が刻まれた瞬間だった。
だが、統合への道のりは、まだ始まったばかりだった。次に待ち受けるのは、荒くれ者揃いの私掠船同盟、そして複雑な内部事情を抱える大商会艦隊との交渉だった。




