第34話 ゴンザとボンゾウ
シズカの来訪から数日後、カラベラの港には、さらに新たな顔ぶれが加わることになった。
「おう、あんたが噂の強化屋さんかい」
そう声をかけてきたのは、恰幅の良い、いかにも商人然とした男だった。関西訛りの、人懐っこい話し方が印象的だ。
「あ、はい、天草蓮です」
「わい、ボンゾウ言います。武器の商いやっとる者ですわ」
ボンゾウは人懐っこい笑顔を見せながら、蓮の手を握った。
「実はな、この島の防衛戦の噂、あちこちの商会で持ちきりでな。あんたの強化した武器やら船やら、いっぺん自分の目で見てみたなって、はるばる来たっちゅうわけですわ」
「見学、ですか」
「せや。それに――」
ボンゾウは声を潜めた。
「これから、ザガレスの野心とやらに立ち向かうんやったら、兵站は大事や思うてな。武器の調達、船具の手配、なんでも相談乗るで」
イザベラが興味深そうに割って入った。
「兵站の専門家、ということか。それは、確かにありがたい」
「へえ。任せてもらえたら、ええ働きしますで」
ボンゾウは自信満々に胸を張った。
***
その傍らでは、もうひとりの新顔が、興味深そうに強化されたガレオン船を眺めていた。
「んだこの船コ……。んめぇ仕事してんなぁ」
東北訛りの、朴訥とした話し方の男だった。歳の頃は蓮と同じくらいだろうか。
「あの、どちら様でしょうか」
蓮が声をかけると、男はびくりと肩を震わせた後、照れくさそうに頭を掻いた。
「あ、ゴンザって言います。船大工の見習いっつうか、材木の目利きしとります」
ゴンザは、ドルシスのもとで働く弟子のひとりだと名乗った。
「ドルシス師匠から、あんたの噂、聞いとったんす。道具の理解っつうもんを、あんなに突き詰められる人、初めて見たって」
「ドルシスさんが、そんな風に……」
蓮は少し照れくさく思いながら答えた。
「ゴンザさんは、材木の目利きが専門なんですか」
「んだ。どの木がどんな性質持っとるか、見りゃだいたいわかるんす。あんたの強化と組み合わせりゃ、もっとええ船コ作れるんでねえかって、ずっと思っとって」
ゴンザの言葉に、蓮は目を輝かせた。
「それは、すごく助かります! 材木の性質を最初から詳しく知っていれば、理解を深めるのも早くなるかもしれません」
「んだら、これから、よろしゅう頼むっす」
ゴンザは照れくさそうに、それでいて嬉しそうに笑った。
***
その日の夕方、イザベラは会議所に、新たに加わったボンゾウとゴンザ、そしてこれまでの仲間たちを集めた。
「ザガレスとの本格的な対立が予想される以上、兵站と造船体制の強化は急務だ」
イザベラの言葉に、ボンゾウが自信たっぷりに応じた。
「任しといてください、船長さん。わいの人脈使えば、必要な物資、なんでも揃えて見せますわ」
「わしも、ドルシス師匠と一緒に、ええ船コ、いっぱい作るっす」
ゴンザも、控えめながらも力強く頷いた。
蓮は、着実に増えていく仲間たちの顔ぶれを見渡しながら、これまでとは違う種類の心強さを感じていた。
一人だった孤独な水夫の航海は、いつしか、多くの仲間たちと共に歩む、大きな航海へと変わりつつあった。
ザガレスとの本格的な対立は、まだこれからだった。だが、その対立に立ち向かうための土台は、こうして、着実に築かれ始めていた。




