第32話 大陸総督の陰謀
鬼灯を仲間に迎えた数日後、ヴェルミナが集めた情報をもとに、白鯨号の面々は再び会議所に集まっていた。
「カラベラを狙った侵略の背景について、詳しいことがわかった」
ヴェルミナは、机の上に広げた資料を指し示した。
「今回の一件は、単なる海賊行為や、行き当たりばったりの侵略ではない。すべては、大陸総督ザガレスの、計画的な勢力拡大の一環だ」
「大陸総督、というと」
蓮が尋ねると、イザベラが説明を引き継いだ。
「アウレリア王国から、西方諸島の統治を任されている高官のひとりだ。表向きは王国の権威のもとで働いているが、その実態は、独自の野心を持つ危険な人物だと言われている」
「ザガレスの思想は、弱肉強食だ」
ヴェルミナが続けた。
「彼は、抵抗力を持たない弱小勢力を次々と併呑し、独自の勢力圏を築こうとしている。カラベラも、その標的のひとつに過ぎなかった」
「他にも、狙われている場所があるということですか」
蓮の問いに、ヴェルミナは重々しく頷いた。
「その通りだ。カラベラ周辺の海域には、同じように脆弱な入植地がいくつも点在している。ザガレスの野心が続く限り、第二、第三のカラベラが生まれる可能性は高い」
イザベラは、険しい表情で腕を組んだ。
「今回、白鯨号がカラベラを救ったことで、ザガレスも警戒を強めるだろう。だが、それで彼の野心が消えるわけではない」
「では、俺たちは、これからどうすれば」
蓮が尋ねると、イザベラは決然とした表情で答えた。
「ザガレスの脅威に晒されている、他の弱小入植地への支援を続ける。そして、いずれは、ザガレス自身の野心そのものを、断つ必要が出てくるだろう」
その言葉の重みに、会議所の空気が、一段と引き締まった。
「一つ、気になる情報がある」
ヴェルミナが、別の資料を取り出した。
「ザガレスの艦隊本隊は、今回のカラベラ攻略に失敗したことで、本国――アウレリア王国への報告を、意図的に歪めているという噂がある」
「歪めている、とは」
「カラベラでの敗北を、『現地の反乱分子による不当な妨害』として報告している可能性がある。もしそうなれば、白鯨号は、王国から追われる立場になりかねない」
蓮は思わず息を呑んだ。正義のために動いた結果が、逆に自分たちを追い詰めることになるかもしれない――そんな理不尽な現実が、目の前に迫っていた。
「厄介なことになったな」
ガイウスが苦い顔で呟いた。
「だが、退くわけにはいかない」
イザベラの声は、揺るぎなかった。
「ザガレスの野心を放置すれば、この海域全体が、彼の支配下に落ちることになる。それだけは、なんとしても防がねばならない」
会議は、深夜まで続いた。ザガレスという、これまでとは比較にならないほど大きな敵の存在が、蓮たちの前に、確かな影を落とし始めていた。
そしてこの陰謀の全貌は、やがて蓮たちを、思いがけない出会いへと導いていくことになる。




