第30話 和解
宴も落ち着きを見せ始めた頃、イザベラは蓮を捜して岸壁へとやってきた。
「こんなところにいたのか」
「あ、船長」
蓮は慌てて居住まいを正した。イザベラは小さく笑い、蓮の隣に腰を下ろした。
「ヴェルミナから聞いた。また、ひとりで塞ぎ込んでいたそうだな」
「その、色々考えることがあって……」
蓮が言葉を濁すと、イザベラはしばらく黙って海を見つめていた。
「私も、少し話したいことがある」
「はい」
「先日の、私の独断行動のことだ」
イザベラは静かに切り出した。
「あのとき、私は功を焦っていた。お前の力に頼り切りになっている自分を、認めたくなかった」
「船長……」
「だが、この数日、あの決戦を振り返って、改めて気づいたことがある」
イザベラは蓮の方へと向き直った。
「お前の力は、確かに絶大だ。だが、それを正しく使うための判断や、皆をまとめる指揮――そういうものは、依然として私自身の役割だ。お前の力だけでは、あの勝利は成し得なかった」
「それは、俺も同じことを思ってました」
蓮は素直に頷いた。
「船長の判断があったから、皆が力を合わせられたんだと思います」
イザベラは、蓮の言葉に、少し照れくさそうな表情を浮かべた。
「――こういう時、素直に喜べばいいものを、どうにも意地を張ってしまう性分でな」
「船長らしいと思います」
蓮がそう言うと、イザベラは思わず吹き出した。
「お前にそう言われるとはな」
しばらくの沈黙の後、イザベラが改まった調子で口を開いた。
「蓮」
「はい」
「私はお前のことを、単なる戦力として見ているわけではない」
イザベラの声が、わずかに柔らかくなった。
「あの無人島から拾い上げたときから、ずっと見てきた。誰よりも謙虚で、誰よりも仲間を想い、それでいて誰よりも自分自身を認められない――そんなお前の姿を」
蓮は思わず息を呑んだ。
「船長……」
「これは、船長としての言葉ではなく、私個人としての想いだ」
イザベラは、まっすぐに蓮を見つめた。
「お前が、隣にいてくれることが、私にとって、思っていた以上に大切なものになっている」
蓮の胸が、大きく高鳴った。これまで感じたことのない種類の緊張と、そしてそれを上回る温かさが、胸の内に広がっていく。
「俺、なんかで、いいんでしょうか」
「『なんか』ではない」
イザベラは、蓮の言葉を遮るように、はっきりと言った。
「お前は、お前だ。それ以上でも、それ以下でもない」
蓮は、しばらく言葉を発せずにいた。だが、やがて、静かに頷いた。
「ありがとう、ございます。俺も――船長のことを、大切に思ってます」
その夜、二人の間にあった小さな亀裂は、こうして、確かな絆へと変わっていった。
月明かりに照らされた岸壁で、蓮とイザベラは、しばらくの間、言葉少なに、それでいて確かな温もりを分かち合いながら、静かな時間を過ごしていた。
だが、その穏やかな時間は、翌日訪れる、思いがけない再会によって、再び大きく揺れ動かされることになる。




