第28話 無敵艦隊
夜明けと共に、ザガレスの艦隊本隊が、水平線の彼方に姿を現した。
「敵艦隊、視認! 総数、確認できる限り十五隻!」
見張りの声が、カラベラ全域に響き渡る。要塞に集結した住民たち、そして港に整列するガレオン艦隊と白鯨号の乗組員たちの間に、張り詰めた緊張が走った。
「全艦、配置につけ」
イザベラの号令のもと、六隻からなる新生艦隊が、迎撃態勢を整えていく。
「蓮、最終確認だ。要塞砲、艦隊、すべての強化に問題はないか」
ヴェルミナの問いに、蓮はしっかりと頷いた。
「はい。できる限りのことは、すべてやりました」
「よし」
イザベラが、艦隊全体に響き渡る声で叫んだ。
「これより、カラベラ防衛戦を開始する! 我らの目的は、ただ一つ――この島の人々を、生きて守り抜くことだ!」
乗組員たちの間から、力強い雄叫びが上がった。
敵艦隊が接近してくる。先頭には、ザガレスの旗艦と思しき、ひときわ巨大なガレオン船が控えていた。
「距離、間もなく砲撃圏内!」
「要塞砲、先制攻撃! 撃て!」
イザベラの号令と共に、強化された要塞砲が火を吹いた。放たれた砲弾は、正確に敵艦隊の先頭数隻を捉え、大きな爆発と共に、その勢いを削いでいく。
「た、たかが植民地の要塞が、これほどの威力を……!?」
敵艦隊から、動揺の声が聞こえてくる。
「今だ! 全艦、出撃!」
白鯨号を先頭に、五隻のガレオン艦隊が、一斉に港を飛び出した。強化された船体は、いずれも驚異的な速度で海面を切り裂いていく。
「うおおおおお!」
ガイウスが白鯨号の甲板から敵艦へと飛び移り、獅子奮迅の働きを見せる。剣を振るうたびに、敵兵が次々となぎ倒されていった。
「導きの目、最適な戦闘航路を!」
イザベラの号令に応え、強化された羅針盤が淡い光を放つ。艦隊は、その示す航路に従い、驚くほど滑らかな連携で、敵艦隊を包囲していった。
「囲まれるぞ! 陣形を立て直せ!」
敵艦隊の指揮官が焦った声を上げるが、時すでに遅かった。数で勝るはずの敵艦隊は、質で圧倒する六隻の艦隊に翻弄され、次第にその隊列を崩していった。
「な、なんという艦隊だ……。まるで、無敵ではないか……」
戦況を見守っていたカラベラの住民のひとりが、思わずそう呟いた。
戦闘は熾烈を極めたが、時間が経つにつれ、戦況は明確に、防衛側へと傾いていった。強化された砲、船体、そして羅針盤――それらすべてが噛み合い、まるでひとつの生き物のように機能する艦隊を前に、数に頼った敵艦隊は、次々とその戦力を失っていった。
「敵旗艦、後退します!」
見張りの声に、イザベラが厳しい表情で頷いた。
「深追いはするな。ここまでで、充分だ」
こうして、ザガレスの艦隊本隊は、多くの艦を失いながら、カラベラの海域から撤退していった。
港には、割れんばかりの歓声が上がった。
「勝った……! 俺たちの島は、守られたんだ……!」
住民たちが、涙を流しながら抱き合っている。蓮はその光景を、疲労困憊の中で、しかし確かな達成感と共に見つめていた。
「よくやった、皆」
イザベラが、艦隊の乗組員たちを見渡しながら、誇らしげに言った。
「この勝利は、誰か一人の力によるものではない。皆が力を合わせた結果だ」
その言葉に、蓮は静かに頷いた。イザベラが前夜に語ってくれた言葉が、蓮の胸に、改めて深く刻まれていった。
だが、この勝利の裏で、蓮の心には、まだ誰にも打ち明けられていない、ある孤独が、静かに影を落とし始めていた。




