第27話 艦隊決戦・前夜
決戦前夜、蓮は港の岸壁にひとり座り、完成したばかりのガレオン艦隊を見つめていた。
「眠れないのか」
声をかけてきたのは、イザベラだった。
「はい……。明日のことを考えると、どうしても」
イザベラは蓮の隣に腰を下ろした。潮風が、二人の間を静かに吹き抜けていく。
「怖いか」
「正直、怖いです。俺の強化が、もし間に合わなかったら。もし、暴走してしまったら――」
蓮は膝を抱え、俯いた。
「この島の人たちの命が、俺の理解度にかかっていると思うと」
イザベラはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「お前は、いつも自分に厳しすぎる」
「でも……」
「聞け」
イザベラの声は、いつになく穏やかだった。
「明日の戦いは、お前ひとりの戦いじゃない。私も、ヴェルミナも、ガイウスも、ドルシス殿も、そしてこの島の住民たちも、皆で挑む戦いだ」
「船長……」
「お前は、確かに強力な力を持っている。だが、それだけがこの島を守るわけじゃない。私たちの覚悟も、住民たちの想いも、すべてが合わさって、初めて明日の勝利がある」
その言葉に、蓮の胸の奥にあった重い塊が、少しだけ軽くなった気がした。
「ありがとう、ございます」
「礼はいらん。ただ、明日は、お前が一人で抱え込む必要はない、ということだけは、覚えておけ」
イザベラは立ち上がり、蓮を見下ろした。
「さて、私はもう休む。お前も、少しでも眠っておけ。明日は長い一日になる」
「はい」
イザベラが去った後も、蓮はしばらく、月明かりに照らされた艦隊を眺め続けていた。
***
同じ頃、船大工小屋では、ドルシスがひとり、古びた写真――いや、この世界にはまだ「写真」という概念はなかった。ドルシスが見つめていたのは、色褪せた一枚の絵姿だった。
「……蓮殿にも、いずれ話す時が来るのだろうな」
ドルシスは静かに呟き、絵姿を胸元にしまった。そこに描かれていたのは、蓮がまだ見たことのない、遠い異郷の風景――高度な技術で栄えていたという、ドルシスの故郷の姿だった。
明かされざる過去を胸に秘めたまま、ドルシスもまた、明日の決戦への備えを整えていった。
***
夜が更け、カラベラの入植地全体が、静かな緊張感に包まれていた。ガイウスは剣の手入れを念入りに行い、ヴェルミナは何度も海図と睨めっこを繰り返している。
そして蓮は、ようやく浅い眠りに落ちながらも、明日への不安と、それを上回る、仲間たちへの信頼を胸に抱いていた。
夜明けと共に、ザガレスの艦隊本隊が、ついにカラベラへと迫ってくる。
新生ガレオン艦隊と白鯨号、そして強化された要塞砲。すべての力を結集した、カラベラ防衛戦――その最終決戦の火蓋が、今、切って落とされようとしていた。




