第25話 ドルシス登場
「本隊との決戦まで、猶予はおそらく二日といったところだろう」
イザベラが、カラベラの会議所に集まった面々を見渡しながら言った。蓮、ヴェルミナ、ガイウス、そしてカラベラの代表者たちが、緊張した面持ちで顔を揃えている。
「白鯨号と要塞砲だけでは、正直、十五隻の本隊を相手にするのは分が悪い」
ヴェルミナが冷静に分析を続けた。
「船が、あと数隻あれば……」
蓮が呟いたそのとき、会議所の扉が控えめに開いた。
「お邪魔してもよろしいかな」
現れたのは、白髪交じりの老人だった。継ぎ接ぎだらけの作業着を纏い、手には使い込まれた道具箱を提げている。
「あなたは……?」
イザベラが警戒気味に尋ねると、老人は深々と一礼した。
「ドルシス・ヴァイエルンと申します。この島に流れ着いて、もう長いこと船大工をやらせてもらっている者です」
カラベラの代表者が補足するように口を挟んだ。
「ドルシス殿は、この島の廃船修理を長年手がけてくれている、腕利きの船大工なのです」
「なるほど」
イザベラが頷く。
「して、ドルシス殿。今日は、どのようなご用件で」
ドルシスは道具箱を机に置き、静かに口を開いた。
「この島の入り江には、かつて交易に使われていた廃船が、幾隻か眠っております。老朽化してはおりますが、骨組みだけなら、まだ使えるものもございましょう」
「廃船……」
蓮の脳裏に、あるひらめきが走った。
「もしかして、それを組み合わせれば、新たな艦隊を編成できるかもしれません」
「その通りです」
ドルシスが、蓮の言葉に頷いた。
「あなたが、噂に聞く強化の力をお持ちの水夫殿ですかな」
「は、はい」
「ならば、話は早い」
ドルシスの目に、初めて確かな光が宿った。
「私はかつて、遠い島国で船大工の頭領をしておりました。当時の造船技術には、いささか自負がございます。廃船の骨組みを組み直し、あなたの力でそれを仕上げれば――」
「ガレオン船の艦隊が組める、ということですね」
ヴェルミナが先を続けると、ドルシスは深く頷いた。
「時間との勝負にはなりますが、不可能ではないと考えます」
イザベラの表情に、初めて明確な希望が浮かんだ。
「ドルシス殿、力を貸していただけますか」
「無論です。この島は、私にとっても、大切な第二の故郷ですゆえ」
そう語るドルシスの表情には、どこか遠い過去を思わせる、影のようなものが一瞬よぎった。だが、それが何なのか、この場にいる誰もまだ、深く尋ねることはしなかった。
***
その日のうちに、蓮とドルシスは入り江に眠る廃船の調査に取り掛かった。
「この船体、竜骨はまだしっかりしている。ここを軸に組み直せば、充分に戦力になりましょう」
ドルシスの豊富な経験と、蓮の理解を深める観察眼。二つが組み合わさることで、作業は驚くほどの速さで進んでいった。
「ドルシスさん、教えていただきたいことがたくさんあります」
蓮が熱心に尋ねると、ドルシスは目を細めて笑った。
「これほど貪欲に船のことを学ぼうとする若者は、久しぶりに見ました。まるで、若い頃の自分を見ているようです」
その言葉には、単なる社交辞令以上の、確かな温かみが込められていた。
こうして、蓮とドルシスの師弟にも似た関係が、静かに始まることとなった。決戦までの限られた時間の中で、廃船から生まれ変わる新たな艦隊の建造が、本格的に動き出した。




