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航図無限 ~最弱の水夫、ただ《道具超強化》だけで七つの海を制した男~  作者: 伝説の男前
第三部:植民地戦争編

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第24話 一時的な敵対

「すぐに追いましょう!」


蓮は迷わず言った。ヴェルミナも即座に頷く。


「白鯨号を出す。急げ!」


慌ただしく出港準備が進められる中、蓮は要塞の砲術担当者に事情を告げ、港に停泊していた小型のスループ船を借り受けた。強化を施す時間はなかったが、少しでも早く動けるようにと、船体の要所だけを手早く強化していく。


「蓮、俺も行くぜ」


ガイウスが剣を担いで駆けつけてきた。


「船長がひとりで突っ込んだって? らしくねえな、あの人も」


「急ぎましょう」


蓮とガイウス、そしてヴェルミナを乗せた小型船が、白鯨号と共に港を飛び出した。


***


イザベラの姿は、敵艦隊本隊の手前、警戒の薄い海域で発見された。単騎で偵察を試みたものの、敵の哨戒船に発見され、包囲されつつある状況だった。


「船長……!」


蓮が声を張り上げると、包囲網の中心で剣を構えていたイザベラが、驚いたように振り返った。


「蓮? なぜここに」


「なぜって、船長が危ないって聞いて……!」


「余計なことを」


イザベラの声には、感謝よりも苛立ちが滲んでいた。


「私は、自分の力でこの状況を切り抜けるつもりだった」


「船長一人じゃ、さすがに無理があります!」


蓮も思わず声を荒げた。これまで、イザベラに対してこんな風に言い返したことは一度もなかった。


「お前に何が分かる」


イザベラの声が、鋭くなる。


「私は、これまでずっと、自分の剣と判断力で、この船を率いてきた。だが今は――お前の力がなければ、まともに戦えもしない。それが、どれほど……」


そこまで言いかけて、イザベラは言葉を飲み込んだ。周囲を取り囲む敵の哨戒船が、じりじりと距離を詰めてくる。


「今は、そんな話をしている場合じゃないです!」


蓮は覚悟を決め、借りたスループ船の帆を強く握りしめた。


――今この瞬間だけでも、この船の力を最大限に引き出させてくれ。


とっさの強化に、船体がまばゆく発光する。付け焼き刃の強化だったが、それでも十分な効果があった。スループ船は矢のような速さで、包囲網の隙間へと突入していく。


「乗ってください、船長! 話は後です!」


蓮が手を差し伸べると、イザベラは一瞬躊躇した後、その手を掴んだ。


「――っ、悪いな」


ガイウスが甲板から敵の哨戒船に切り込み、注意を引きつける。その隙に、蓮の操るスループ船は、イザベラを乗せて包囲を突破した。


白鯨号の援護砲撃も加わり、敵の哨戒船はやがて追跡を諦め、本隊へと引き返していった。


***


港へと帰投した後、イザベラはしばらく黙り込んでいた。蓮もまた、何を言えばいいのか分からず、気まずい沈黙が続いていた。


「……すまなかった」


先に口を開いたのは、イザベラだった。


「功を焦って、独断で動いた。結果として、お前たちに迷惑をかけることになった」


「いえ、俺こそ、船長に言い過ぎました」


蓮も素直に謝罪した。


「船長が、自分の力で戦いたいって思う気持ちも、わかる気がするので」


イザベラは少し驚いたように蓮を見た。


「わかる、のか」


「はい。俺も、自分に自信が持てなくて、ずっと悩んできましたから」


蓮は正直に打ち明けた。


「船長は、誰よりも強い人だと思います。俺の力は、あくまでその強さを、少し後押ししているだけです」


イザベラはしばらく黙っていたが、やがて小さく笑みを浮かべた。


「お前は、本当に不器用な慰め方をするな」


「す、すみません……」


「いや、悪くない」


イザベラは立ち上がり、蓮の肩に軽く手を置いた。


「本隊との決戦は、目前だ。今度は、私も冷静に指揮を執る。約束する」


その言葉には、先ほどまでの焦りとは違う、確かな落ち着きが戻っていた。


蓮とイザベラの間に生じた小さな亀裂は、こうして、決戦を前に修復されることとなった。だが、二人の関係が、これで終わりというわけではなかった。


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