表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アノンの涙  作者: maruko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/43

9

 その日はアルトが学園へ入学するために、王都へと向かう日だった。

 当初はアノンとライトがアルトに付き添って行くはずだったが、その前夜突然ミネリタが倒れた。

 直ぐに医師に診てもらったが、何故か()()という信じられない診断がされた。それでも少し休息すれば大丈夫と言われて安堵していたが、ミネリタがアノンに側にいてほしいと言い出した。


 いつもなら、その役目はマチルダのはずなのにと、ライトと二人訝しんだが、あまりいい予感がしなくて断った。だが側にいるのを断ったアノンにアルトが言った。


「お祖母様は心細いんだよ、お母様と一緒にいたいと思ってもしょうがないだろう。付いていてあげなよ。学園には入学式のときに来てくれたらいいしさ」


 アルトの言葉でアノンはミネリタの我儘で残ることになった。


 次の日の朝、二人の見送りをしようと、アノンが使用人達とエントランスで話をしていると、旅装姿のマチルダがやってくる。

 驚くアノンにマチルダが、王都にいるシトロン伯爵と会うのだと言う。

 ついでだから一緒の馬車に乗ると言い出して、アノンもライトも驚いたが、アルトは聞いていたようだった。


 出発時間も迫っていたこともあり、三人を送り出したアノンは、その時から嫌な予感がしていた。


 それから一週間経ってもライトもマチルダも帰ってこなかった。代わりに同行した御者からの手紙が子爵宛に届いた。

 子爵家をアントンにお願いして、急いでアノンは御者の元へ向かった。


 御者がいたのは王都の一つ手前の領地にある病院だった。


 あれから最初の宿泊する街に着いたとき、ライトとマチルダ、そしてアルトが喧嘩を始めたらしい。

 彼らと御者は泊まる部屋も違うし、喧嘩していたことは食事の時に、他の家の御者から聞いたのだという。喧嘩の原因は、マチルダの泊まる部屋だったそうだ。王都までの順路で泊まる宿は前もって子爵家で予約をしていた。

 親子三人で泊まるつもりだったから、部屋もダブルの一部屋しか予約していない。

 そこにマチルダも泊まると言い出して、言い合いになったらしい。

 当たり前だ、夫婦でもないのにマチルダは何を考えてるのだと、アノンは話を聞いて憤る。

 結局その日は別の部屋をとって、そちらにマチルダを押し込んだらしいのだが、次の日の馬車でも揉めていたという。どうやらライトがマチルダの同行を拒んだという。

 そしてマチルダを置き去りにする予定だったが、そこでまたアルトがライトに懇願して一緒の馬車に乗ったのだと御者は言った。


「その時から、ライト様は不機嫌でして。途中馬車を停めて休憩の時も、アルト様に注意されてました」


 言いにくそうに御者が言ったのは、アルトがマチルダを“母上”と呼んだと言うのだ。

 5歳のあの時から、彼等の中では変わっていなかったのだとアノンは青褪めた。


「その日は雨も強かったですので、あまり進めなかったんです。ですがライト様は一刻も早く王都に行きたいと申されますので、私もお気持ちは分かりましたから、少し無理をしてしまいました」


 御者はライトが怒るのは最もだと思い、少しでも早く王都に着けばマチルダから離してあげられると、視界の悪い中進んでしまったそうだ。そして途中何かに馬車が乗り上げてしまい、馬車が横転したのは覚えているが、それから手紙を出すまで御者は意識がなかったそうだ。


 体を起こし無理な態勢で話す御者は大怪我をしていた。青白い顔をしてアノンに謝罪する。


 馬車には家紋があったが、馬車はかなり古くなっていた為、横転したときに見るも無惨に割れてしまい、確認するのが難しくなっていた。

 だが御者を助けた人の話では、三人はその側には居なかったのだと聞かされた。


 何の手がかりもないまま消えた三人。


 アノンは、()()を案じて探し続けた。



 ◇◇◇



 彼等の行方が分かったのは、それから半年後だった。


 ライトとマチルダは夫婦になっていて、その二人の間にアルトが生まれていた事になっていた。


 それを知らされたアノンは絶望する。

 事情を王家に聞きに行ったのはアントンだった。


 その少し前からアノンは、病に倒れていた。肺に穴が開く病だと聞かされていたのに、二人の行方を探す事と執務の両方で無理を重ねすぎて悪化してしまっていた。


 三人が居るのは隣国だという。


 あの馬車の事故で頭を打ったライトは、失った記憶を取り戻したという。

 彼の正体は隣国ハイザード王国の第三王子だったらしい。だがライトは記憶を取り戻した時に、スカイナ王国で過ごした事は全て忘れてしまっていた。そして彼の記憶は居なくなった時の12歳のままで止まっていた。


 記憶を取り戻したライトが、隣国に帰らなければと言った時、マチルダとアルトで王宮へと向かい、そこで隣国の大使館により三人で隣国に向かった。ライトの記憶が子供の頃で止まってしまっていたため、隣国から事情を尋ねられたマチルダは、部分的な真実と嘘を混ぜて話していた。アノンの事は意図的に全く話さなかった。


 ライトを発見したのはマチルダ。

 ジェルバン子爵家に滞在させたのはミネリタ。

 アルトはマチルダとライトの子供。


 最後だけ嘘をついたが、アルトがマチルダを母上と呼んでいた為、隣国では信じられた。

 そしてその時、マチルダからミネリタは《《直ぐに》》手紙で連絡を受けていたのだ。

 ミネリタは、それまでのお礼だと、隣国から沢山の礼金を受け取っていた。


 そんなことも知らずに病を抱えてライト達を探し回っていたアノン。

 そしてそれに追い打ちをかけたのは、またしてもミネリタだった。


 ミネリタは隣国からの多額の礼金を受け取り、隣国に移り住むために爵位を返上した。

 そして少しの資産だけをアノンに残した。


 最後までアントンはアノンに寄り添おうとしてくれたが、全てを失ってしまったアノンには、彼にさせる仕事もなければ、給金も払えない。

 アノンに残ったのは、あの三人で過ごした離れだけだった。


 そして、誰に看取られることも無く、アノンはその離れで生涯を終えた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ