表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アノンの涙  作者: maruko


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/25

5

「記憶喪失?」


「はい、どうやらご自身のことが分からないようです。なぜあの場所にいたのかも」


 男の子は2日間熱に魘されたが、3日目に漸く目を覚ました。それを見届けてアノンは執務室に戻ったが、ユナと交代で看病し続けていたアノンは、ロードから休むように言われて、その後自分の部屋でぐっすりと眠っていた。

 そして起きた時に、ユナから男の子の状態を聞かされたのだ。


 男の子の寝かされている部屋に行くと、そこにはミネリタとマチルダがいた。

 ミネリタは理想の子供の色を持つ、その男の子に興味津々で、ここにいればいいと言い出してロードやアントンを困らせていた。マチルダは男の子がここに残ることに嫌そうだった。


 そんな皆を見つめていたら、ミネリタがアノンに気が付いた。


「まぁアノン、貴方が連れてきた男の子、記憶がないんですって!可哀想よねぇ」


 ミネリタの声と瞳はアノンに期待するように輝いて見えた。


「そうですね、気の毒ですね」


 アノンの言葉にミネリタは満足そうに頷く。

 そんな二人のやり取りに焦ったようにマチルダが、割って入った。


「でもおば様!こんな得体のしれない方は危険ですわ!」


 マチルダの言っていることは正論だった。だが、彼女に言われるのは釈然としない。見守る使用人達が、そう思っていた時、アノンが口を開く。


「とりあえず、怪我を治してもらわないと、追い出すこともできませんよね。このままここで治療してもらいましょう。ロードは行方不明の届けがないか、役所に聞いてきてもらえるかしら」


 アノンの言葉に一同納得して動き始めた。

 そんな皆のやり取りを聞いていた男の子はアノンにお礼を言った。


「ありがとうございます」


「いえ、体早く回復するといいですね。身元が分かったらいいのですけど。それまで何と呼びましょうか?」


 アノンの問いかけに男の子は首を左右に振って答えた。


「僕には何もわかりません。名を付けてもらえませんか?」


「私が?うーんそうですねぇ」


 アノンが悩んでいると、横でミネリタが色々な名前の候補を挙げていた。それに便乗してマチルダも自分の考える名を言っている。二人の事をすっかり皆が聞こえないふりをしている時、男の子の伏せていた顔が上を向いた。真っ直ぐにアノンを見つめるその瞳は、青い色だが、普通の青と違って薄く、透き通るようにもアノンには見えた。

 青よりも薄い青。


「ライト、あなたの名前ライトはどうかしら?」


 アノンの言葉に男の子は嬉しそうに頷いた。


 その日からジェルバン子爵家に、もう一人金髪の子供が加わることになった。


 領地運営の勉強に忙しいアノンは、それからも変わらぬ日々が続いた。ライトの事は気にはなったが、見舞いに行く暇はなかった。偶に覗いても彼は薬で眠ってるときが多かった。


 ミネリタはもう一つアクセサリーが増えたように、彼に構っているようだとアノンは聞いていた。

 そんな時、久しぶりにルートがジェルバン子爵家にやってきた。どうやら謎の人物の登場を心配して来たのだった。あれからロードが手を尽くして調べても、ライトの素性は分からなかったのだ。あとは国境沿いという事もあり、可能性は隣国になるが、その問い合わせは国レベルで行わなければならず、一介の子爵家にそんな力はなかった。


「ふうん、本当に忘れちゃったみたいだな」


 執務室で書類に向き合う子供らしくないアノンに、ルートがそう言って、気を引こうとするけれど、アノンは税率の計算問題を実地でしているところだったので、相手が出来ないでいた。


 それに不満のルートは、アノンに仕事をさせようとしているロードやアントンに文句を言う。伯爵令息のルートに言い返す事が出来ないロード達は、その苦言を甘んじて受けていた。


「ルート!ロード達を責めないで。私は納得してるから」


「アノンが納得していても、これはおかしい事なんだよ!」


「そうかもしれないけれど、私がしようって思ったのは、お父様の領民を思う気持ちを大切にしたいからよ。お母様に任せたら皆が露頭に迷うわ」


「辺境伯家から手伝いは来ないのか?」


「⋯⋯そうね。でもあちらも普通じゃないのでしょう」


 アノンの言葉に項垂れているのはアントンだった。アノンに執務をさせるとミネリタが言い出した時、真っ先に辺境伯に進言をしに行ってくれたのがアントンだった。

 元々アントンはジュノンが辺境伯家にいた時からの従者だ、ジュノンの兄である辺境伯とも顔見知りではあった。だが辺境伯はジュノンの優秀さを妬んでいた為、その娘のアノンがどうなろうと知った事ではないと言ったのだ。


「私が不甲斐ないばかりに申しわけありません」


 謝罪の言葉を述べるアントンを労りながら、アノンはルートを宥めた。


「ルート、心配してくれるのは嬉しいけれど、仕えてくれる皆を責めるのは止めて。私が頑張って済むならそれでいいのよ。でもありがとうルート。私を心配してくれて嬉しかった」


 使用人以外でアノンを気にかけてくれるのは、もはやルートしかアノンには居なかった。


「困ったら絶対に頼ってくれよな」


「うん、そうするね」


「じゃあ、帰る。あまり長く居るとあの女が突撃してくるから。それと、身元の分からない奴なんだから、充分気をつけるように!」


 ルートの言うあの女とはマチルダの事だった。見目の良い伯爵令息のルートを、初めて会ったときからマチルダは気に入り、まだ数回しか会っていないときに、勝手に幼馴染とお茶会で吹聴して周り、ハウケン伯爵家の不評を買っていた。


 アノンにライトの事で注意を促して、ルートはジェルバン子爵家をあとにした。


ルートの危惧はその後、現実のものとなる。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ