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「うーん」
窓から射す光はカーテン越しにも明るい。
今日も晴天!さて今日は何をしようかな?
アノンはベッドで半身を起こして、両手を上げて、伸びをしながら窓辺を見つめていつものように考える。
「そうだった、今日の予定は決まってたんだったわ」
『明日は大使館にアノンも呼ばれているよ。一緒に行こう』
昨夜夕食時に、ジュノンからそう言われた事を思い出した。
どうやら昨日、アイジェットがスカイナ王国から来ているらしい。それを聞いてアノンは、彼がまたもやアントンを置いてきたのだと憤っていた。
「おじ様はアントンを何だと思っているのかしら?」
かつてアントンは、ジュノンの侍従だったが、ジュノンが平民になって同じ身分になった。
今ではアノンの事もあり、ハイザード王国から殆ど出ることのないジュノンよりも、身軽に動けるアントンの方が、外交官補佐の役目は果たしていると言える。
だが、アントンは決してジュノンから離れようとはしなかった。身分は同じだからとジュノンが、何度も諭そうとしたが、彼は頑なだった。
「私はどちらかが死ぬまでジュノン様の侍従です」
そう言って、アイジェットの命令よりもジュノンの方を優先するのだ。それは、ユナも同じだった。
アノンは平民になって、幼い頃は体が言う事を聞かないのもあり、お世話をしてもらったが、歳を重ねていけば、自分の事は自分で出来るようになった。だから侍女は必要ないのだが、夫同様、
「私はいつまでもアノン様の侍女です」
と宣う。似た者夫婦と言う言葉があるが、この二人の事を言っているのだろうとアノンは思うし、それに感謝もしている。
流石に朝の仕度は、貴族ではないから自分でするが、それ以外の時はいつもユナがアノンに付き添っている。
二人とも独立できる給金をもらっているにもかかわらず、別で暮らす選択肢を持たなかった。
しかもアントンは、ジュノン以外から給金をもらうつもりはないと、自分の働き分はジュノンの給金に加算してくれと、アイジェットに直談判する始末だ。
だから毎月、ジュノンの給金に加算された分を、リステル家の執事のロードがアントンに渡すという二度手間が発生している。
ちなみにロードも頑なにこの家の執事に拘った。
ジュノンとアノンは、三人の主張に困惑しながらも、それをありがたく受け入れる事にした。
斯くしてリステル家は、平民ながらも執事と侍従と侍女のいる家になったのだ。
他の使用人は、料理人と洗濯メイドだけを雇っている。
掃除のメイドはジュノンが雇おうとしたが、アノンが止めた。
洗濯は難しいが、掃除は時間を掛ければアノンでも出来るし、貴族の家ではないからそこまで広くはない。
ユナと二人で毎日アチコチ拭き上げていた。
ベッドから起き上がり、着替えを済ませて髪を梳いていると、ノックの音がする。
返事をすると、いつものようにユナが入ってきた。
「お嬢様おはようございます。今日はこれを着けませんか?」
アノンの髪型だけは、ユナが毎朝結い上げてくれていた。今日は可愛らしい髪留めを、ユナは持ってきていて、その手を開いて見せてくれる。
「まぁ可愛い!」
蝶の形をした銀細工の髪留めは、丁度アノンの親指の爪くらいの石が3つ並んで付いていた。
アノンの髪は、背中くらいに伸びている。
これも巻き戻り前とは違う髪型だ。前は髪を結う時間も惜しくて、肩に付くくらいの長さで揃えていたのだ。
今は毎朝ユナに、髪結いをしてもらうのが楽しみで仕方ない。
「石の色が全部違うのね」
アノンはドレッサーに向かい、背後に立つユナに話しかける。
ユナは、アノンの髪を漉きながら「そうですねぇ」と簡単な返事を返した。
(薄い茶色に見えるのは琥珀かしら、黒はオニキスね。でも青は⋯まさかサファイア?嘘でしょう、そんな値の張る物を誕生日でもないのに)
並ぶ石の色で宝石が付いているとは思ったが、本物ならあまりにも分不相応に見えて、イミテーションよね?と、アノンはユナに確認したが、彼女は曖昧に笑うだけだった。
腑に落ちないアノンだったが、髪留めはとても気に入っていた。
サイドの髪だけをジュノンから貰ったリボンとともに編み込んで、頭の後ろで纏めたところに髪留めを付けてもらい、後ろの髪はそのまま漉くだけにしてもらった。
水色の膝丈のワンピースととても良く合っているように思えて、アノンは嬉しくて軽いスキップをしながら食堂に向かった。
「おはようございます、お父様」
ご機嫌なアノンに、先に席に着き新聞を読んでいたジュノンが紙面から顔を上げる。
「おっ!とても良く似合ってる。今日はいつもにも増して可愛いぞアノン」
くるりと一回りしたアノンに、ジュノンは笑顔で褒めてくれた。
「ユナが持ってきてくれた髪留めは、お父様からですか?ありがとうございます」
「えっ?いや、うーん違うんだが、アイジェットから《《渡されたんだ》》」
「まぁおじ様からなのね。あとでお会いしたらお礼を言わなきゃ」
「う、うん、そうだな。違うけど、貰ったらちゃんとお礼を言わないとな」
「⋯⋯⋯?」
歯切れの悪いジュノンを不思議に思ったが、勤め人のジュノンに、今日は同行して大使館に行かなければならないアノンは、ユナに背後から急かされて慌てて朝食に取り掛かった。
食卓に出てきたいつもと違う甘いお茶は、いつかどこかで飲んだ気がするお茶だった。




