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アノンは、ライトや王家の事を、ジュノンに何も聞かなかったし、聞かされなかった。
ただ、今度はライトことセドリックが、平穏な人生を歩んでいけるという事が、アノンには何よりも嬉しく安堵することだったから、それだけで、その事実だけで良かった。
「ライトはもうどこにもいないけれど、それでいいのよ。幸せになってねセドリック様」
アノンは、10歳の誕生日の夜、自室で寝る前に夜空を見上げてセドリックの行く末が、幸多い物である事を月に願った。
そして自分の為にも願う。
思いがけず巻き戻った時間の、最大の目的、今度こそ誰のためでもなく自分の人生を歩むと決めた。
じゃあ自分のために何をしよう?
そこまで考えていなかったアノンは、夜空に眩く輝く月に向かって首を傾げながら問いかけた。
「私らしく生きるって?何をしたらいいかしら?」
今までそんな事を考えたことのないアノンは、自分らしくという最も難しい疑問を月に尋ねる。当然答えは返ってこない。
うーんと、悩んだところで解決しなかったアノンは、とりあえずお父様に聞いてみよう!そう思って10歳の誕生日の日を終えた。
「何だって?」
翌日の朝食の時、アノンは月に尋ねた同じ問いをジュノンに投げかけてみた。
投げかけられたジュノンは、まさかそんな事をアノンが悩むとは思いもよらなかった。だが彼女の巻戻り前は、自分の事を考える余裕がなかったのだと思い至り、またもや胸を痛める。
アノンから巻戻り前の話を聞かされてから、ジュノンは度々この胸の痛みを感じていた。
「そうか、そんな事でもアノンは悩んでしまうんだな。でもねアノン、何がしたいのかとは考えることではなくて、感じることなんだ」
「感じること?」
「そうだ、それは別に目的なんかなくても良くて。例えば今朝起きて、顔を洗っただろう?」
「えぇ」
「そうしたら何を真っ先に思った?」
「うーん」
アノンはジュノンの問いに、今朝の事を思い出してみた。
「今日も生きてるって思ったわ!」
「「⋯⋯!」」
アノンの言葉にジュノンも、後ろに控えていたユナも再び胸を打つ。
ちなみにアントンはこの場に居なかった。働き者のアントンを気に入ったアイジェットに、まだ振り回されている最中で、彼は今スカイナ王国にいる。
斜め上の回答が来たジュノンは、胸を打たれたが、それに怯むことなく「じゃあその次は?」と辛うじて次の質問を投げかけた。
「えーそうですねぇ。あっ!本を読みたいと思いました」
「何の本?」
「今私は、大陸語でこの国の方と接しているけれど、この国の、ハイザードの言葉を覚えたいなと思いました。それでそれを学ぶ為の本はこの家にあるかしら?と、あれば読みたいなと」
アノンの言葉に満足したのか、ジュノンは笑顔を浮かべながら頷いた。
「ほうらアノン。アノンのやりたいことが一つ見つかったね」
「⋯⋯あっ!でもお父様、こんなことでいいのかしら?」
「そんな事の積み重ねの、大きくなったものが、きっと将来の夢なんだと思うよ」
「でもお父様、明日は違う事がしたくなるかもしれません」
「うん、それもアノンのしたいことなのだから、今日と違ったっていいんだ。その中からアノンが選べばいいんだよ」
「私が⋯⋯⋯選ぶ。選んでいいんですね!そうか、私が選んでいいんだわ!」
アノンは父との会話で、自分が自分の為に選んで、したいことというのを見つければいいのだと、二度目の人生で漸く思い至った。
「ふふふっ」
少し厚めのベーコンにナイフを入れながら、アノンは、思わず小さな笑い声が出るほど、今日からの日々が楽しみになった。
頭が理解するとそれからは早かった。
さっきまで、自分が何をしたいのか、そんな事にも思い至らなかったのに、急に色々とあれもやりたいな、これもやりたいなと、湯水のようにやりたい事が頭の中をかけ巡る。
期待に頬を染めながら、考えを巡らすアノンは、昨日10歳になったばかりの年相応の娘にジュノンには見えた。
そんな娘が愛おしくて、ジュノンは不自由な思いを今度は絶対にさせないのだと、アノンと同じように、ベーコンにナイフを入れながら、新たに決意するのだった。
二人のそんな仕草と表情を見てユナは
(旦那様もお嬢様も本当に父娘そっくりですね)
と、父娘の幸せに満ちた朝食の風景を、後ろに控えながら見つめるのだった。




