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アノンの涙  作者: maruko


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 それからは驚きの連続だった。

 マチルダの想定外のことが起こり始める。

 あまりにも身分の高いライトに、妻と嘘を吐いてしまった事を後悔し始めた頃、三人で隣国ハイザード王国に行く事になってしまった。

 もうマチルダに逃げ道は無かった。


 ハイザード王国では丁重に饗された。

 国王はライトの兄で、弟を救ってくれたと感謝され、突然マチルダはドバジール公爵夫人になってしまった。


 スカイナとハイザードの国境付近に差し掛かった頃、マチルダはミネリタに手紙を送った。

 経緯を書き記し、絶対にアノンにバレないようにして欲しいと頼んだ。

 事が大きくなりすぎてしまって、ミネリタがマチルダの思惑に乗ってくれるかは賭けだった。


 だが、ミネリタはマチルダの話に乗るどころか便乗して、スカイナ王国で爵位を返上してから、マチルダの元へとやって来た。

 再会したとき「寂しかった」と言われ、抱きつかれた時に、マチルダはミネリタを鬱陶しいと思い始めた。このままだと彼女が死ぬまで、マチルダは弱みを握られていることになる。

 どうしようか考え倦ねていた頃に、最悪の事態に陥る事になる。


 それはマチルダが、公爵夫人となって2年程経過した時だった。その頃にはマチルダは、公爵夫人の身分に相応しいほどの贅沢にも慣れきっていた。憂いはミネリタの執着だけだった。


 突然ドバジール公爵家に、騎士達が乗り込んできてマチルダとミネリタは捕縛される。

 訳がわからず牢に入れられ数日経った頃、ライト改めセドリックが牢へとやって来た。


「あなた!助けに来てくれたのね!」


「⋯⋯」


「どうしたの?早く出して!ここはとても寒いし食事は不味いし」


「⋯⋯」


「あなた?」


「⋯⋯アノンが亡くなっていた」


「⋯⋯ひっ!」


 セドリックのその一言で、マチルダは、彼がスカイナ王国での記憶を思い出したことを知る。


「何が俺の妻だ!お前と夫婦になったことなど一度もない。しかもアルトにまで嘘を吹き込んで。何が本当の母親だ!お前たちはどれだけアノンを食い物にすれば気が済むんだ!しかも⋯アノンは⋯アノンが⋯」


 そこでセドリックは、憎しみの篭った瞳をマチルダに向けながら近付いてきた。


「お前には、ハイザード王国国王に虚偽の証言をした罪を償ってもらう。本来なら処刑だが、俺が止めた。お前は簡単に死ねると思うな」


 セドリックはそう言い残して背を向けた。マチルダの前にその姿を二度と見せることはなかった。


 それからマチルダは、片足の腱を切られ、鉱山に送られた。そこでは鉱山で働く男たちの洗濯の労働だった。ミネリタがどうなったかは、マチルダには知らされなかった。


 鉱山で働く者は50人ほどだったが、その人数分の洗濯をマチルダは一人でしなければならなかった。一日の作業が終わらなければ、休む事も叶わず、マチルダは恩赦無しで、そこで死ぬまで働く事になった。

 彼女の最期は、洗濯の途中で鉱山が崩れ、土砂が水場に流れ込んだことで生き埋めになり、窒息死だった。


 苦しくて苦しくて、もう二度とあんな目には遭いたくない。


 マチルダは巻き戻ったやり直しの人生に気付いた時、今度は()()()()上手くやろうと思った。人生を変えなければならない。


 あの時は、嘘は一つしか吐いていなかった。


 マチルダがライトを発見したのも本当だし、ミネリタがライトを保護したことも本当。

 ただ面倒を見たのがアノンだった、それだけで二人は結婚したのだ。

 マチルダはそう思っている。


 ならば、今回は全部本当にすればいい。

 ライトとマチルダが結婚すれば嘘ではない。


「今度は上手くやれるわ。記憶をなくしたライトに、最初から優しく接してあげればいいのよね」


 マチルダは、早く両親が死なないかなと、その日を指折り数え待っていた。








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