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「待って待って待って」
アノンの言葉にいち早く言葉で遮ったのはアイジェットだった。
「それが現実になるなら何処から守ればいいんだ」
「⋯⋯鍵は国王だな」
ジュノンの言葉に、一同またもや息を呑む。
「王弟の反旗は第二王子ということか」
アイジェットが確認するようにアノンに尋ねる。
「そうですね、現王太子が即位したのなら、王弟は二人しかいません。そのうちの一人はライトで、その時点ではスカイナ王国にいますから」
「彼は生き延びたのだな」
アノンがアイジェットの質問に答えると、彼は頷きながら続ける。
そんなやり取りを何度か繰り返したあと、ジュノンが優しくアノンに言った。
「アノン、ここからは我々が考えることだね」
ジュノンのこの言葉は、今までも何度も同じように言われた。アノンの中身が30代というのは、既にジュノンは理解している。それでも極力この問題にアノンを関わらせないように彼はするのだ。
「お父様、でも」
「アノン。君が巻戻ったのは、幸せになるためだと思うんだ。だから私はそれに全力を注ごうと思っている。君の憂いを払うのは親の私の役目だよ。君は静かに情勢を見守るんだ。それと⋯ごめんねアノン」
唐突にジュノンから謝られてアノンは「えっ?」と伏せていた瞳を上げた。
「セドリック様とは今度は添い遂げられない。私の計略で君達は大きく身分違いになってしまったから」
ジュノンの言葉にアノンは目をパチパチと瞬せた。そしてフッと笑ってしまう。
「お父様そんな事を謝らないでください。元より身分違いです。それにセドリック様とライトが、同じようで違うのだと今日殊更に確認できたようなものでした。彼に対して、懐かしさはあっても、相容れない物だと理解もできました。私、殿下から、侍女に間違われましたのよ」
ジュノンはアノンの言葉にホッと胸を撫で下ろした。娘の中ではセドリックの事は整理がついているのだと安堵したのだ。
ジュノンにとってはそれが一番の懸念だった。
もしアノンが前の時の様に、セドリックと添い遂げたいと願っても、それだけは簡単に叶えてあげられるものではない。
娘の願いを叶えたいと思っても、彼にも出来る事と出来ないことがある。そして、出来ない事の筆頭がそれだったのだ。
「じゃあアノン。君とこの話はこれで最後だ。あとは私達に任せて、部屋でゆっくりと疲れを取るといい」
ドバジール公爵邸から帰ってきて、外出着のままのアノンに休むように告げたジュノンは、それ以降の話をアノンには聞かせなかった。
そうなってしまっては、アノンにはもう言うことを聞く以外の選択肢はない。
アノンはアイジェットに、カーテシーで礼をとるとその部屋を出た。
廊下にはユナが待っていてくれた。
「お嬢様、お着替えいたしましょう」
アノンはユナに頷いて自室へと帰っていった。
◇◇◇
「アイジェット、君は国王に渡りを付けられるか?」
「謁見を申し込むのは可能だが、秘密裏は無理だ。スカイナ王国を動かせば可能だが、そんなことをしたら内政干渉を疑われてしまう」
「いえいえもう既に内政干渉でしょう」
「はぁ、そうだな」
ジュノンの問にアイジェットが答えて、それをアントンが否定すると、わかりやすくアイジェットは溜息をついた。
男三人で頭を悩ますのは、この件で完全にアイジェットは、王妃派に肩入れしていることになるからだ。
他国の王家の問題に、アイジェットは既に干渉し始めてしまっている。
「申し訳ない」
ジュノンの謝罪にアイジェットは笑う。
「ハハハ、何言ってるんだジュノン」
「だが、君を巻き込んで⋯」
「何を今更。この話を君達が、持ってきた時点でこうなることも覚悟の上だし、それに私は下手を打った。君の愛娘に残酷な事をしてしまった。自身の身の程をわからせるという、ドバジール公爵の考えに加担したのだから」
「それは⋯⋯だがアノンのためには良かったのかもしれない。彼とはあまりにも身分が違い過ぎる」
ジュノンの言葉にアントンも頷いている。
巻き戻り前と違う展開にするには、もう二度とセドリックは記憶喪失などにはならない。もし、何らかの形でそんな事が起きたとしても、隣国へ行かせるなんてことは、もう有り得ないのだ。
彼はそうなってもハイザードで留まるから。
それから三人は今後の話を始めた。
ジュノンの体を慮って長くは出来なかったが、それ以降の方針が決まった。
その日から、アイジェットは二国間を飛び回る。その補佐にアントンが付くことになった。
ジュノンは体を回復してから、それに加わっていく。
その働く姿をアノンは見ていることしか出来なかった。
そうして、流れるように刻々と時は過ぎてゆく。
セドリックの運命の日、アノンの10歳の誕生日は目前だった。
そんな時、思いもかけない人からアノンに手紙が届いた。
表向きは、大使館にアイジェットへ届いた手紙だったが、中にはアノンに宛た手紙が入っていた。
差出人はハウケン伯爵夫人、ルートの母からだった。




