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帰りの馬車の中で、早速という様にアイジェットがアノンに謝罪してきた。
「アノン、申し訳なかった。君の願いを叶える為にと躍起になりすぎて、私はドバジール公爵に不信を与えてしまったのだ。不徳の致すところと恥じている」
「黙っていたのはなぜですか?」
「公爵に演技は通じないんだ。前以て知らなかった方がアノンをちゃんとわかってもらえると思った」
そうしてアイジェットは、ドバジール公爵との話をアノンに説明してくれた。
現在ハイザード王国の貴族は王妃派と側妃派に分かれている。それもかなり一触即発の状態なのだとか、そこにセドリックの周りで不審なことはないかと、アイジェットが探っていると、ドバジール公爵は部下から報告を受けた。
そして彼はアイジェットを詰問する。
王妃派にしてみれば、他国の元王子の外交官が、不用意に王妃派の期待を担うセドリックに近づこうとしていると、取っても不思議ではない。実際にそう取られていた。
そして、アイジェットは側妃派なのではと疑いをかけられたのだという。
そこで下手に隠しだてするよりも、全てをドバジール公爵に詳らかにして、協力を頼む方が早いとアイジェットは断定して、アノンの秘密を打ち明けた。
だが、アノンの巻戻りの人生など、直ぐに信じでもらえるものではない。
ましてやアノンの事など、ドバジール公爵は会ったこともないのだ。
ということで、今日の対面に至ったのだとアイジェットは話してくれた。
そしてドバジール公爵は、アノンの始めの挨拶で、アノンを観察して、セドリックに害を為す人物かどうかを、あの対面で見ることにしたのだという。
「王子殿下は見目がいいから、今までも令嬢達から言い寄られたりされていたらしい。少しでもそんな素振りをアノンがしたら、この話はなかったことになり、我々もこの国から追い出すことにしていたそうだ」
アノンはドバジール公爵の胸の内を想像する。
娘が王家に嫁いで、蔑ろにされた挙句、離縁もできない様な理不尽な目に合わされた。
だが、セドリックが生まれて、ようやく娘の苦労が報われようとしている矢先に、隣国の元王族が周りをちらつく。
問い詰めたらあり得ないファンタジーを話し始める。
「うん、公爵にとって、私達は充分不審人物だわ」
アノンの言葉に、アイジェットは掌で自分の目元を隠し、天を仰ぐように馬車の天井を見上げていた。
「ジュノンならきっともっと上手くやるんだろう。私は少し焦りすぎていたようだ」
「私とお会いしても、やはり信じてはもらえなかったのですか?」
「いや、その逆だった。アノンに会って真実味を帯びたらしい。こちらの言う事を信じてくれたよ」
「それは良かったです。私でもお役に立てたのですね」
アノンは、子供だからと何もさせてもらえないことが辛かった。自分が願ったことなのに、皆の手を煩わせていることを理解して、そう思っていたが、自分が少しでも貢献できたのなら、それで少しは救われるような気持ちになった。
そして、それならばと先程思い出した話をアイジェットに相談しようと思った。
「私、先程思い出した事があるんです。お父様のお知恵もお借りしたいので、こちらの家の方にお寄りいただいてもよろしいですか?」
アノンの言葉にアイジェットは頷いた。
◇◇◇
ジュノンはまだ、ベッドの住人だったが、最近はそこで半身を起こして、本を読んだりする事も出来るようになっていた。そろそろ庭の散歩の許可も出せそうだと医師から説明も受けていた。
今もアノンの話を聞こうと、ベッドから起き上がっていた。
その周りに各自で椅子を持ち寄り、円を描くような形で座っている。
「ジェルバン子爵家では、お父様が亡くなる数年前から、侯爵家と運送の事業を始めていたんです」
アノンの言葉に、ジュノンとアントンはお互いに目を合わせてから、アノンを見つめた。
実はその事業は、立ち上げたばかりで、結局そのまま前子爵に丸投げして、ジュノン達はこの国にやってきていたのだ。
アノンが国を出た頃に、話し始めたばかりの事業で、ジュノンが演技をしている間に、詳細はアントンが密かに進めていてくれた。何かを残さなければ、子爵家が尚更ジュノンを手放さないと思ったからだ。
その話を知らないはずのアノンがしていることで、ますます二人はアノンの巻戻りが真実だと確信した。
「その事業は当たりました。子爵家の主な収入源に後々もなってくれのです。ただ始めの頃は単価が安すぎました。それを侯爵様が上げてくださったのが、丁度ライトが発見された半年後の事なのです。私はまだ子供だったから、詳しい事はわかりません。ただ値上がりに隣国が絡んでいた事は、間違いないと思いました。そのような事を、アントンが教えてくれたと思います」
ジェルバン子爵家は、辺境伯家から隣国との国境の土地を任されていた。隣国との間には、大きくそして入り組んだ森があった。昔からその森は、一度足を踏み入れば二度と出られないと、例えられるほどの森だった為、そこが戦場になることはなかった。
その森の端の一画を、ジュノンが子爵家に来てから、隣国へ通行できるようにしたのだ。
その事業は、長い間、大きくはないが、ジェルバン子爵家の税収以外の収入源となってくれた。
「その事業に陰りが見えたのが、私とライトの息子だったアルトの6歳の誕生日前頃だったのです」
「陰り?」
「えぇそれによって、私達は大変忙しくなりました。主に調整が大変でアントンはよく隣国との国境付近に行っていました」
「それは隣国が関係しているということなんだね」
「はい、隣国で市井に降りた王弟が、兄王に反旗を翻してクーデターを起こし成功したのです。そのクーデターを起こした場所が、国王の在位15周年の式典だったと聞きました」
「在位15年、反旗を王弟」
アイジェットがアノンの言葉を噛みしめるように繰り返す。
「15年以上前に現国王に何かが有り、王太子が即位したと言うことだね。そしてそれを15年後に王弟が覆した」
「私、この国で王家の事を調べました。市井の噂や大使館での話しか、わかりませんが、セドリック王子殿下は、現国王に可愛がられていると聞いています。そんな彼が行方不明になって探さないわけがないのに、実際は、誰も訪ねては来てないのです。それは何故なのだろうとずっと不思議に思っていました」
昔の事に思いを馳せたとき、アノンが思い出したのは隣国の情勢だった。
それまでは、ライトの事を実は第三王子だったと頭では理解していても、それに結びつけて考えていなかったのだ。だが結びつけて考えれば分かった事がある。
「この国の国王と王妃は、セドリック殿下が行方不明になった時、既に亡くなっていたのではないでしょうか?そしてドバジール公爵達も」
アノンの言葉に、その場にいた者は息を呑んだ。




