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緊張して、お茶を飲んでいても喉が渇くという謎現象が、ずっと続くアノンだったが、セドリックの方も困惑していた。
事前に、会ってほしい人がいると、スカイナ王国元王子のラクルス公爵から頼まれたと、祖父に聞いていたセドリックだったが、現れた人物が自身よりも年若い少女だった事が意外だった。
(彼女は一体何者?)
11歳のセドリックは王妃派の期待を一新に背負い、またそれに応えている聡明な王子だった。それを自負しているセドリックに、態々紹介したいという少女は、挨拶の所作は丁寧だったが、意外にも平民であった。
所作から元は貴族令嬢かと思いきや、孤児院からの養女だという。
そんな人物を王子に紹介する意図が、全くわからずに困惑していた。
「えっと、サージス嬢」
「はい」
「君は僕の侍女になるのかな?」
態々個別に紹介するのもおかしな話ではあるが、現状一番考えられるのが“侍女”だった。
「いえ、あの、違うと思います」
アノンにしてみても“会う事”自体が、アイジェットの不意打ちであるから、返事は否とは言ったものの、脳内では(そうかも)と考えたりもしていた。セドリックの困惑は、アノンにも伝わっていた。
それにしても⋯。
とアノンは考える。
彼の顔は出会った時と変わらないな、懐かしいな。
そう思って、アノンは本当は泣きそうになっていたのだが、話し方が圧倒的に違っていた。
『僕は誰ですか?』
巻き戻り前の時、助けられてから目覚めて暫く経過した時、彼は不安そうな顔で震えながらそう言ったのをアノンは覚えている。
あの声と、今の身分に相応しいセドリックの声とは違って聞こえる。
「そうなのか⋯では何故だろうか?君を紹介したのはラクルス公爵だから、孤児出身といえど身元は確かなのだろう。だがこんな事を言うのは、君に失礼かもしれないが、意図がわからなくて⋯正直困惑しているのだ」
セドリックのご尤もな意見を拝聴しながら、アノンは心の中でアイジェットに舌打ちしたくなった。彼はアノンとジュノンにとっては恩人ではあるけれど、それとこれとは別問題だ。一体彼は何がしたいのだろうか?
困惑している二人のところに、ようやく話が終わったのか、ドバジール公爵が呼んでいると、使用人が移動を促して来た。
二人は揃って立ち上がる。
アノンはここに、公爵家の侍女に誘導されて来た。アントンもアイジェットとともにドバジール公爵と話をしていた為、一人でここに連れてこられていたのだ。
立ち上がってみたものの、少し心許なくて不安に思った時、何故かセドリックがアノンの横にやって来た。
そして、手を差し出してきた時、思わずアノンは「えっ?」と驚きを声に出していた。
(まさかエスコートしてくれるつもりなの?)
差し出された手とセドリックの顔を交互に何度か見て、恐縮しながらもアノンはその手に自分の手を重ねた。
するとセドリックは少しアノンの方に体を寄せ、耳元で囁く。
「君、やっぱり貴族だよね」
その行動がセドリックの試し行動だと知ったアノンは、やはり彼は王子なのだと、巻き戻り前に出会ったライトは、もうどこにも居ないのだと悲しい気持ちが胸に広がっていった。




