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アノンの涙  作者: maruko


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 (嘘でしょう?)


 アノンは、公爵家の庭に設えられたガゼボで、侍女から出された極上のお茶を、震える手で口に運びながら、目の前に座る少年を見つめて困惑していた。声に出せない驚きを、何とか押さえて平然を装おうとするが、上手くいってる気が全くしない。

 アノンの目の前に座る少年は、セドリック・ドバジール・ハイザード。ハイザード王国第三王子殿下で、巻き戻り前に記憶をなくしたままアノンと婚姻したライトだった。





 ハイザード王国にやって来たジュノンは、仕事どころではなく、体調を戻すのが最優先され、アイジェットの手配で、ありとあらゆる手を尽くすことになった。

 その甲斐もあってか、まだベッドで横たわるジュノンだが、少しずつ体力が回復していった。

 こちらに来てずっと、ベッドの住人になってしまっているジュノンだったが、それでも父の側にいられることがアノンには幸せで、毎日その部屋に入り浸っていた。


 そんなある日、アイジェットの使いが家にやってきて、アノンは大使館に赴く事になった。ジュノンをユナに任せて、アントンとともに寄越された馬車に乗って大使館に向かった。

 着いた大使館の入り口では、既にアイジェットが待っていて、アノン達の馬車に乗り込みハイザードの公爵家へと向かうと告げられた。

 その行き先であるドバジール公爵家と聞いた時から、何となくその話しになる予感はあったが、まさか本人と会わせられるとは、アノンは想像していなかった。


 ジュノンがアノンとともに住む国を、この国に決めたのは、アノンの願いである、ハイザードの第三王子だったライトを助けるのが目的だ。

 だがその為に動くことが、ジュノンが側にいないアノンには、子供過ぎて出来ない。その辺りを補ってくれたのは、アノンの話を聞いたアイジェットだった。彼は、率先して動いてくれているようだった。

 それでもアノンにも何かできないかと思い、この国の王家の事をアノンなりに調べてみた。


 それによって、今日訪っているドバジール公爵家が、王妃の生家だという事をアノンは学んでいた。


 ハイザード王国は、アノン達の祖国スカイナ王国とは歴史も規模もそして体制もあまり変わらない国だ。両国は3代前に協定を結び、友好国ではあるが、婚姻などで王家が結ばれたわけではなかった。

 そしてスカイナ王国にはあまり知られていなかったが、今ハイザード王国の貴族は、王妃派と側妃派で二分していた。


 現ハイザード王国国王には王妃と側妃がいる。

 この国王が元凶だった。


 国王と王妃は幼い頃から婚約を結び、長年睦まじく過ごしていたのだが、ある夜会で、後の側妃になる侯爵家の令嬢を、国王が見初めてしまったところから混乱が始まった。

 それはまだ現国王が王太子時代の事だった。

 だが政略で国家の基盤を盤石にする為に結ばれた、幼い頃からの婚約を破棄すれば、自身が国王になれないのは王太子が重々承知していたようで、当時王太子妃であった王妃と婚姻した。


 しかし彼は隠れて避妊を続けて、王家の規定により2年半で、見初めた侯爵令嬢を側妃にした。

 そして直ぐに子を儲けてしまった。

 丁度側妃が王子を産んだ頃、王太子妃との閨で王太子が避妊薬を飲んでいた事が発覚する。それに怒り狂ったのは、当然国王とドバジール公爵、そして王太子妃だ。

 まだ、国王に即位していなかった王太子はあわや廃嫡まで追い込まれた。

 それを食い止める為に、彼は嫌がる王太子妃にも子を授けた。それが第二王子の誕生だった。その為に王太子妃は、王太子と離縁する事ができなくなった。

 その後も王太子妃には、子が授かりそれがセドリックだ。

 その後、先代国王が崩御して、王太子が国王に王太子妃が王妃になった頃から、王家は第一王子と、第二王子の争いが起こり始めた。

 2歳違いの兄弟で、母親の実家は公爵家と侯爵家。

 どちらも王太子に相応しく、議会も割れていた。

 だが第二王子に先天的な病気が見つかり、その決着は呆気なくついて、側妃の産んだ第一王子が立太子する運びとなった。


 ただ王妃にはまだセドリックがいた。

 彼は病気でもなく、6歳で始めた王子教育も順調で、5歳違いの第一王子よりも、皆に愛される性格だった。それは側妃派には大誤算だった。それに追い打ちをかけたのがまたもや国王で、彼は三人の王子の中で末子のセドリックを殊の外可愛がっていたのだ。


 アノンがこの国に来た頃は、市井でも王妃派と側妃派の噂話は蔓延っていたから、貴族は尚の事顕著だっただろう。


 そんな背景がある中、突然のこのお茶会である。


 少しアノンを警戒するように見つめるセドリックに、アノンはどんな話を振ればいいのか、全く思い浮かばないほど動揺していた。







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