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「君がジュノンの娘だね」
アノンがアイジェットと初めて顔を合わせたのは、ハイザード王国に到着して僅か3日後だった。
その際に、麗しい顔の尊き血筋の御仁は、不躾に値踏みするような瞳をアノンにぶつけた。気持ちはわかる。彼の瞳がアノンのブルネットの髪に向けられていたから、その向こうにミネリタを見たのだろうと推測出来た。
苦笑したアノンに、不躾な眼差しを向けていたアイジェットの目が丸くなる。
「ん、ん、すまんな。子供にしては大人びているのはジュノンに似たのだろうか?」
アイジェットはアノンに謝罪するも、問いかけはユナにしていたようだった。
問いかけられたユナはただ微笑むしか出来なかった。
ハイザード王国に来て、旦那さんから渡されたジュノンからアノンへの手紙には、巻戻りの事をアイジェットには伝えていないから、言いたくなければ言わなくてもいいとあった。
だが、アノンは巻き戻り前にアイジェットと両親との関係を知らなかった。知っていたら、ライトとの事も違っていたのかと思えたし、何よりアイジェットはミネリタの非常識さを知っている。
だから話してみようとアノンは思った。
全てを詳らかにすると、アイジェットはわかりやすく驚いた。だが、理解は早かったように思う。
初めて会ったのに、アノンの言葉を信じてくれたアイジェットに、アノンはホッとする。
「だから、ハイザード王国なのか」
「はい、父がそのように考えてくれました」
「君は、恨んでいないのかい?その⋯第三王子のことは⋯」
「はい、恨んでなどいません。却って申し訳なかったと思っています」
「それは何故と聞いても?だって君は捨てられたんだろう?」
アイジェットが気の毒そうにアノンを見ていた。それは巻き戻り前に、何度かマチルダに向けられた眼差しに似ていた。
違うのはそこに“見下し”があるかないかだ。
アイジェットは、アノンを気の毒に思っても見下したりなんかしてはいなかった。
「それは彼の意思ではありませんから」
「それはそうだが⋯」
「ジェルバン子爵家があの時、《《あのような》》状態でなければ、少なくとも父がいたならば、彼はもっと早くに祖国へと帰ることができたでしょう。祖国に帰ったその時に、記憶がなかったとしても、うちに居たときのように、下働きからコツコツと使用人を続ける必要もなかった。それにライト、いえ第三王子殿下に、私は長く支えてもらったのです。息子の事は残念でしたが、幼い頃からあの二人に洗脳されてしまえば、私に太刀打ちなど不可能でした」
「そうか、そうかもな。あの女は全く人の話を聞かないからな。そんな女が二人だなんて、ゾッとするな」
アイジェットの言葉には、どれだけミネリタから迷惑を被ったかが表れていた。
「ラクルス公爵様」
「おじで良い」
「えっ?」
「おじ様だ。言ってごらん」
「おじ様?」
「あぁ、君はジュノンの娘で、そして戸籍上ではリジッドの娘になる。それならば私のことも身内同然に思って欲しい」
「⋯⋯ありがとうございます。おじ様」
「あぁ、それでいい。前の時かな?私が手を差し伸べていたらと悔やむよ」
「そんな!それはジェルバン子爵家の問題ですから」
「だが、私にはジュノンに借りがあったんだ。だがおそらく考えるに、私はあの女に関わりたくなかったんだろうなと思う。だからジュノン亡き後の子爵家の事を調べたりもしなかったのだろう⋯と推測しかできないが」
アノンにはアイジェットの気持ちが分かった。
ミネリタがジュノン亡き後、再び元第二王子のアイジェットに関心を示さなかったのは、おそらくマチルダが側にいたからだろう。
アノンにとってマチルダは、二度と会いたくない災いを齎す女であるけれど、アイジェットにとっては良かったのかもしれない。
立場や状況が変わると、その人自身は変わらないのに、周りの関わり方は変わるのだと、アノンは二度目の巻き戻り人生で学んだ。




