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アノンの涙  作者: maruko


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 ジュノンとダンヒルがこの計画で頼ったのは、嘗ての同級生というのも烏滸がましいが、ミネリタの被害者でもあるスカイナ王国元第二王子、アイジェットだった。

 彼は公爵位を賜って臣籍に降りてはいる物の、彼の担う仕事は外交だった。

 隣国の内政にも詳しい、その事がジュノン達が彼を頼った一番の目的でもあった。

 それともう一つ、ジュノンがアイジェット()には個人的に一つ、貸しを作っていたのも大きい。彼がそれを今でも恩に感じていてくれていたら、必ずアノンの事も良しなに取り計らってくれるものと信じていた。


 二人で訪った公爵邸で、ジュノンはかなり緊張していた。こんな事がなければ、かつての事を恩に着せるなどという真似はジュノンには出来なかった。だが、事は他でもないアノンの事だ。愛娘の為には、何でもしようと思っている。それでもいざ口を開こうとすると、乾いた口からは思うように言葉が出なかった。

 それを補ってくれたのは、やはり親友のダンヒルだった。


 彼は簡潔にそして的確に、ジュノンの状況をアイジェットに説明してくれた。


「そんな事になっていたのか、だがどうして行き先がハイザードなのだ?」


「⋯それは⋯申し訳ありません、今は言えません。ですが、無事にアノンがこの国を脱出できましたら、必ずお話致します」


 ジュノンとダンヒルの真剣な眼差しに、アイジェットは心を動かされる。


 学園の卒業のときに、アイジェットはジュノンに願い事をした。本来ならジュノンはアイジェットの部下として外交補佐を担ってもらうつもりだった。それを違えたのはアイジェットだった。


 ジュノンはアイジェットの願いを聞いて、ジェルバン子爵家に自分の釣書を送ってくれた。

 その事があって、アイジェットは無事に今の妻と婚姻することが出来た。ミネリタを放置すると何をしでかすかわからなかった為、監視の役割をお願いしたのだ。


 ジュノンに食いつくかどうかは、ジェルバン子爵家次第だった。もし駄目な場合は、はじめの予定通り、ジュノンは外交補佐をする事になっていた。


「娘の隣国での戸籍が必要だな。書類上だけなら、表向きはお前と親子でなくてもいいか?」


 公爵が動いてくれる!


 ジュノンは目頭が熱くなった。

 ダンヒルも嬉しそうに口元に笑みを浮かべている。


「戸籍だけなら構わない。こちらでミネリタが、いつアノンの籍を抜くかは定かでは無いから、全くの別人の方が都合がいいんだ」


「一つ、条件がある」


「⋯⋯⋯何でしょうか?」


 気安く話してくれと言われて、言葉遣いが学生の時のように話していたが、条件と聞いてジュノンは身構えて、思わず言葉も固くなった。


「ジュノンにとっては難しくないよ。隣国で私の外交補佐として働いてほしい。なるべく他の国へ行くことがないように、娘と離れないようにはするが、少しばかり忙しいかもしれない。それでもいいだろうか?」


「喜んで!」


 ツテのない隣国での仕事まで決まるなんて、ジュノンにとっては願ってもないことだった。


 斯くして交渉は成立した。


 アノンは来る日にミネリタと出かける。

 その先で盗賊に襲われ、アノンとユナは連れ去られ行方不明になる予定だ。

 その手配はダンヒルが、ハウケン前伯爵にお願いしている。

 ジュノンはそれを嘆き悲しみ、失意のうちに離婚して、その後はアノンと同じく行方不明になる予定だ。


 おそらく、最低でも半年程は、親子は会う事は叶わないだろう。それ位慎重に動かなければならない。

 だが、その間のアノンの保護も、アイジェットが請け負ってくれた。


 アノンが行方不明のままで、ジュノンは離婚する為、アノンのジェルバン子爵家からの除籍ないし、死亡届の確認はロードが請け負ってくれた。そしてその時点で彼はジェルバン子爵家の執事を退職して、隣国のジュノンたちの元に来てくれるという。


 その日まで、もう少し。


 ジュノンは最愛の娘の為に、友の力を借りて密やかに動き始めた。






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