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アノンの異質に気付いたのは、アートやルートの母である現ハウケン伯爵夫人メリーヌだった。
彼女はアノンの巻戻りを知らない。
だが、アノンの子供らしからぬ所作と言動が、夫人にとって違和感を生じさせた。
メリーヌとハウケン伯爵ダンヒルとの婚約は、メリーヌが学園を卒業してから結ばれた。婚約から3ヶ月という異例の速さで婚姻したのは、お互いが遅目の婚約だったし、政略ではなかったからだ。
メリーヌはダンヒルの明るさが好きだった。
学園の同じ倶楽部で一つ上のダンヒルは、倶楽部の部長で皆に頼られる存在だった。
自身の卒業パーティ前に告白されて、パートナーとして卒業パーティにも参加してくれた。そしてそのまま婚約できたのは、メリーヌにとって幸せで夢見心地の気分だった。
そこにまさか苦痛を伴う付き合いが、始まるかもしれないなんて夢にも思っていなかった。
ダンヒルとジュノンは親友で、それは学園にいる時から知っていた。
ジュノンは辺境伯家の三男で、卒業後は王宮で文官として働くのではないかと皆に思われていた。
それほど優秀な頭脳を持つジュノンは、ダンヒル同様学園では人気者だった。ただ一つ彼に瑕疵があるとするならば、婚姻したら貴族ではなくなってしまうという事だけだった。
だから、ジュノンがジェルバン子爵家に婿に入ると夫から聞いた時、メリーヌは茫然とした。
ジェルバン子爵家に婿に入るという事は、彼の結婚相手はあのミネリタだということだからだ。メリーヌの一つ下のミネリタは、とんでもない令嬢だと有名だった。
メリーヌも一度だけ彼女が学園で、第二王子殿下に纏わり付こうとして、側近の令息に追い払われているのを見た事があった。
その時に、人の話を曲解する人だと分かって、自分とは考え方が合わない令嬢だと思ったことがあった。
(まさかこれから友人として、あの人と付き合わなければならないの?)
メリーヌの顔色で何を思ったのか気付いたダンヒルは、無理に付き合わずとも良いと言ってくれた。
だからこそあまり親しくしないようにしていた。それでもジュノンは夫の親友だから、夫達は変わらず付き合いが続いていた。
メリーヌとジェルバン子爵家との関係に、変化があったのは、ジュノンの一人娘アリエリーノの誕生会に呼ばれた時だった。
本当は行く気はなかったが、ミネリタは苦手でもジュノンとは普通に接していたメリーヌは、彼の一人娘を見てみたいと思った。
彼が話す娘はとても愛らしく、ジュノンが目に入れても痛くないという程に、可愛がっているのは明らかだったし、もしもミネリタに似ているのであれば、誕生会に呼ばないだろうと思ったからだ。
だが、行ってみて後悔した。
アリエリーノは、申し分ないほど愛らしく、息子の嫁に欲しいと思えるほどの令嬢だった。
だがやはりミネリタはミネリタだった。
そんなに彼女を知っているわけではないが、どうにも話が噛み合わない。
話していても辟易するだけで、一つも楽しくなかった。
挙句の果には意味のわからない事を言い出す始末で、流石にジュノンが怒鳴った時は、メリーヌも恐ろしさに体が震えた。
どうして側に娘が居ると知っていて、よその娘を養女にして家を継がせようと思えるのか。そしてそれを口に出きるのか。
娘をそこまで軽んじる理由が、髪色だという事に、常識の通用しない人物が間近に存在することにも身が震えた。
それから直ぐにジュノンが、夫ダンヒルに相談を持ちかけた。
詳細はメリーヌには今の段階では伏せられた。
全て調ったら教えてくれると夫は言ったが、それまでに、アリエリーノの心が折れないように気を配る方法はないかと相談も受けた。
だからルートに文通するのはどうかと言ったのだ。
本当はアートに言ったのだが、アートは元々じっと出来る子供ではなく、手紙を書く為に机に座っていられなかった。
仕方なくルートに言うと彼はサササッと手紙を認めて持ってきた。
それから二人は文通し合う仲になっていた。
一応婚約者でもない男女の手紙ということで、メリーヌはその手紙の何方にも目を通していた。
ルートの手紙は専ら兄妹の観察日記で、親としても苦笑するほどの報告書だったが、意外にもアリエリーノはそれに食いついていた。
彼女の返事も兄妹にこうしてみては如何かなどと、アドバイスまで綴っていた。
実年齢よりもアリエリーノが大人びている事は、手紙の内容とその文字から理解していたが、所作まではあの誕生会でしか見たことがなかったから、よく分かっていなかった。
だが今改めてアリエリーノを見ると、メリーヌの目には少し異質に見えた。
あまりにもしっかりしすぎているのだ。
世の中には反面教師という言葉がある。
ミネリタを見てこれではいけないと思ったにしても、7歳の子がそれを思うのはあまりにも早すぎる。
メリーヌの目の前にもう一人、異質な人物が現れたように思えた。




