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アノンの涙  作者: maruko


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 ジェルバン子爵は辺境伯領の一画を、先祖代々任せられている所謂代官貴族だ。

 その任された領地は、一つ森を抜ければ、隣国ハイザード王国でスカイナ王国にとっては重要な土地であると言える。

 そんな大事な土地ではあるが、領地自体は特に豊かなわけではない。

 農業もそれなりで、鉱物の出る山もない。特産物などに発展しそうな材料が何もない、まるで態とそうしているような領地であった。

 自然豊かなジェルバン子爵領は、可もなく不可もなくというよりは、可もなく不可が多少あると言う感じだった。

 だからこそ、この子爵領は平和なのだ。

 隣国が、諍いを起こしてまで欲しいと思わない土地、それがこの領地全体の短所でもあり長所でもあった。


 そういうこともあり、子爵領はあまり道なども整備されていない。

 ガタゴトと、揺れる馬車での移動は、時折休憩して空気を吸わなければ、吐き気を催すほどの大きな揺れを伴うものだった。


 アノンは巻き戻り前、その馬車に何度も乗っていた為、自分が馬車揺れに慣れている事に気付かなかったが、今一緒に移動しているユナとロードは、アノンが巻き戻ったアノンであることを、その様子で初めて実感していた。


 大の大人でさえ苦しむ馬車の揺れに、7歳の少女が平気な顔で馬車に揺られている様は、それだけで異様な光景だった。

 二人から向けられる視線に、窓から外を見ていたアノンが気付いた。


「どうしたの?」


「⋯⋯お嬢様が、人生をやり直しているのだと、実感していたところです」


 ロードの言葉にアノンは目を丸くした。


「そのままですと、《《普通のお嬢様》》ですのに⋯」


 ユナの言葉に怪訝な目でアノンが見つめると、ユナは苦笑して自分の気持ちを吐露した。


「お嬢様の言葉ですから、信じられると思っていました。ですがやはりお姿はお子様でいらっしゃいますから、多少無理はありますが、大人びた子爵令嬢とも見えていたのですが。この馬車に乗って動じないなど普通はありえませんよ。ですからお嬢様の言葉が、真実であると実感していたところです」


 ユナの言葉にアノンは苦笑する。

 前の時のこんな他愛もない《《慣れ》》が、アノンの言葉の後押しになるなど思っていなかった。


「奥様の異常なまでの金髪好きは、もはや病気だと、先代が早く気付いていれば、こうはならなかったかもしれませんね」


 ロードの愚痴に、アノンの目線が彼に移った。


 子爵領からアノン達は今、隣のハウケン伯爵領に向かっている。

 隣と言っても互いの屋敷が領地の端にあることから、馬車で揺られて30分ほどで伯爵家には本来なら到着する。だが、今アノンが向かっているのは、前ハウケン伯爵、ルートの祖父母のいる場所だ。


 ジュノンが、アノンの親権を取る計画の為に、ロードと一緒に前伯爵を訪ねる事になっている。そこへはルート達も、来てくれているはずだから、アノンは楽しみでもあった。あまり子爵領を出ることがないユナも同様だ。

 ジュノンの依頼で、伯爵達は事前に協力を頼まれているとはいえ、ジェルバン子爵家の内情を話すのはロードの役目の為、彼だけは酷く緊張していた。


 一人だけ蒼白で緊張から手の感覚すら無くなるほど冷たい。

 馬車に乗れば、いつもは直ぐに休憩するのだが、緊張からかあまり吐き気も感じず、そのまま馬車を停める事なく進んでいた為、ユナの具合が悪いと言う言葉を聞いて、ハッとしてアノンを見て、彼女の人生を巻き戻ったという不思議な体験を、改めて真実だと実感したのだった。


 そしてその過酷な人生を強いられた、一人の女性の苦悩の一端に、自分も原因として関係しているのだと体から震えが来るほど悔しく思う。


 その理由が無知なミネリタの、くだらない虚栄心からくるものだと思えば、ロードは一層彼女に腹が立ってくる。そんな気持ちから出た言葉だった。







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