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「結論から申し上げますと⋯説得できませんでした。申し訳ございません」
ロードの謝罪の声が執務室に低く響いた。
アノンは今、執務室の中から行き来できる、来客用の部屋にユナと一緒にいた。
アノンの巻戻りの件を、ロードに伝えるかどうかは、ジュノンへと委ねた。
そして今日までロードには伝えていないと言われ、アノンは密かに報告を聞くことにしたのだ。予想通りの結果に、アノンはユナと顔を見合わせて苦笑する。
無理だと分かっていた、それでも遠いとはいえ親戚で、かつては婿候補だったロードが説得するならば、光明も見いだせるかもしれないと、一縷の望みを持ったのだが、結果は⋯。
今は、ロードの働きにジュノンが労っているところのようだった。
そしてジュノンがロードに告げていた。
「今夜、話があるんだ。私の部屋に密かに来てもらえるか?」
「⋯⋯畏まりました」
その日の夜、アノンも父の部屋に呼ばれ、ロードにも巻戻りの件を告げる事となった。
「何と言う事を!お嬢様申しわけありません」
ロードは話を聞いて直ぐに謝罪を口にしたが、彼にしてみれば未来の話だ。巻き戻ったのはアノンだけなのだから。
「ロード、貴方のせいではないわ」
「ですが!そういえば先代は?先代はどうされたのですか?そういう時はお嬢様ではなく先代が出るのでは?まさか見捨てられたのですか?」
「違うのよロード。これから一年に満たないくらいに、質の悪い流感が流行るの。それでお祖父様達は亡くなられてしまうの」
アノンの言葉にロードは指で眉間を挟み揉みながら頭を振る。
これはロードの癖だった。同仕様もなくなった時などに良くしていた仕草で、アノンはそれが懐かしく感じて、つい微笑んでしまった。
その微笑みに怪訝な顔で、ジュノン達がアノンを見つめる。それに気付いてアノンは苦笑して言い訳をした。
「ごめんなさい、ロードのその仕草が懐かしくて、つい。場にそぐわなかったですね」
その時に、ロードは思わずというように、再びアノンに深々と礼をした。驚いたアノンだったが、彼曰く直ぐに謝罪は口にしたけれど、心の内では半信半疑だったそうだ。
漸くロードにも伝える事ができた。
アノンがジュノンを見つめると、彼が宣言するようにその場の皆に告げる。
「これで、子爵家が潰れようが気にしないで済む。先代達には世話になったと思っていたから躊躇したが、娘の行いを正せなかったのだから猛省してもらおう」
「旦那様、家を出るお積もりでしたか?」
ジュノンの言葉でロードは察してくれたようだった。ロードに頷いたあと、ジュノンはアノンをギュッと抱きしめて問いかける。
「アノン、確認だ。私と来ると平民になるんだ。それでも構わないかい?」
「お父様、私はずっとお父様と一緒がいいです」
アノンの言葉に、ジュノンは嬉しそうに微笑んでアントンと目配せをした。
そこでロードが疑問を口にした。
「ですが旦那様。今の時点では離縁されても、お嬢様の親権は取れません。一緒には居られないのでは?」
「それについては、色々と考えているのだが。ロード、君の手助けが必要なんだ。子爵家に抗う事になるが、協力してもらえないだろうか?」
父はどうやってアノンの親権を取るのだろうか?
今の時点ではアノンにもその方法は分からなくて、二人のやり取りを大人しく見つめていた。
ただ、そこに不安など何もなかった。
父とこれから先も人生を過ごしていける、その希望が、アノンには何よりの喜びだった。




