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「お嬢様、旦那様の部屋へ先に行かれて頂いてよろしいですか?」
まだ中では、二人の言い合いは続いていた。
だが、アントンは、もうアノンに誤魔化すつもりはないようだった。
抱き上げられているので、同じ目線でアントンはアノンに告げた為、その瞳に真剣さを見てアノンはアントンに頷いた。
下ろしてもらったあとはユナと二人、当初の予定通り父の書斎兼寝室へと向かった。
アノンは巻き戻り前に、父がアノンに話した言葉を思い出す。
『領地の勉強は学園に入ってからで遅くはないよ。アノンは私に似てるからね、きっと直ぐに覚えちゃうから大丈夫!』
父はどんな思いでその言葉をアノンに言ったのだろう。きっと二人で家を出るつもりだったから、覚えさせる必要はないと判断したのだと思われる。
だから学園に入ってからと言ったのだと、巻き戻った今なら分かる。
前の時、きっとアントンは、本当に苦渋の決断でアノンに領地の事を教えてくれたのだと、そして主人の意に反した行いに責任を感じて、父亡きあともアノンを支えてくれたのだろうと思えた。
「お母様の金髪好きって異常に思えるのだけど、何故あそこまで拘るのかしら?」
何がそんなにミネリタを突き動かすのか、ただ単に金髪で青い目が好きな女であったミネリタの異常性を、アノンは初めて恐怖に思った。
そして、狂人の考えなど、知りたくはなかったが、もし知ってるならば何かの参考になるかもしれない、そう思ってユナを見上げて聞いてみた。
「私は存じ上げないです。でもロード様はご存知ではないでしょうか?あの方はここで働く前から、先代様とお知り合いのようでしたから。聞いてみましょうか?」
「そう。別にいいわ、そこまで知りたいわけじゃないの。ひょっとしたらお父様が知ってるかもしれないし」
アノンは、巻き戻った人生では、絶対にマチルダに会いたくないと思っている。
散々辛酸を嘗めさせられた相手でもある。幼い息子を洗脳したり、記憶の戻った夫と婚姻した女だ。
喩え、今は何の被害もないとはいえ、マチルダに対していい感情はない。
会わずに済むなら絶対に会いたくないのだ。
だからこそ、先程聞いた言い合いでの発言で、母とは決別しようとアノンは心に決めた。
母の金髪への拘りが分かったとしても、先程の発言は許せない。
そして、前の時も同じだったのだろうと考えたら憎いとすら思える。
そんな事を考えていたら、父の部屋に着いた。
部屋に入ってソファに沈む。
どう切り出そうかと考えていたら、荒々しい声のジュノンとそれを必死に説得しているようなアントンの声が聞こえて来た。
愈々だ!
父は信じてくれるだろうか?
アノンは腹に力を入れて、扉が開くのを待った。




