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アノンの涙  作者: maruko


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 それからのアノンはユナの協力もあり、巻戻り前と同じように生活していく。前の時、この頃のアノンは普通の子爵家のお嬢様だったから、特別変わった事をする必要はなかった。

 ただあまりにも昔過ぎて、アノンは普通がわからなくなっていた為、ユナの協力が必要だった。なるたけ子供らしくをモットーに、日々ジュノンとの幸せな時間を過ごした。

 巻き戻る前と違うのは、やはりミネリタへの接し方だったかもしれない。

 どうしても、ミネリタの一挙手一投足に、前を重ねてしまう。そして前は気付なかった、彼女の愚かさが目に付いてしまうのだ。


 そして思ったのは、前の時アノンは、ミネリタに理想の子ども像を一度だけ言われたと思っていたが、ミネリタはかなりの頻度でアノンに刷り込むように言っていることが分かった。


「お母様って結構酷いと思っていたけど、マチルダが来てからだと思ってたのは本当に私の間違いだったのね」


 ボソリと呟いたアノンの言葉をユナが気付いて、頷くのを見ると、ミネリタのそんな行動が以前からだったのだとアノンは知った。


「奥様は、昔からご自分が一番でした。お嬢様があまり気にされてなかった様なので、敢えて私達は伝えることはしません。ただ旦那様にはご報告もしておりましたし、そんな時はいつも旦那様とお嬢様はお二人でお話されたりしてました」


 アノンがもっと小さい時から、ジュノンがフォローしてくれていたことも、巻戻ったから知る事だった。

 やはり、ジェルバン子爵家に父が居なくなった事が、子爵家の崩壊の始まりだったのだと改めて分かる。


 アノンは、ユナにロード達にも話した方がいいかを相談した。


「お嬢様、それよりも旦那様に直接お話されたほうがよろしいのではないでしょうか?」


「お父様に?」


「はい」


 ユナの真剣な顔に、アノンは考える。

 アノンが巻き戻った時から、考えている前の時との変更点は、3つあった。


 1つはジュノンの命を救うこと

 2つめはライトを助けるが、直ぐに隣国に知らせること

 3つめは結婚相手だった。


 前の時と同じなら、あと1、2年でルートと会うことができる。子供の頃のルートと会うことも楽しみだった。


 ライトが記憶喪失だということを、アノンは前の時、アルトを産んだ頃には失念していた。彼は失踪したあの時に記憶が戻ったと聞いた。あの後、母国できっと幸せになっただろうと思う。

 残念ながらアノンの事は忘れてしまったかもしれないけれど、マチルダは兎も角、本当の息子のアルトは側にいるのだから、急に記憶が戻ったライトを助けてくれていると信じている。

 そして記憶が戻った時に、アノンの事を忘れてしまうなら、やっぱりルートの言った通り、ライトとは結婚すべきではないし、彼は直ぐに隣国へ戻ったほうが良かったのだ。

 保護されたのがジェルバン子爵家でなければ、隣国への問い合わせもあの時に出来ていたはずだった。

 だからアノンは、もし前の時と同じようにライトが森にいたら、直ぐに隣国へ知らせるべきだと考えていた。

 出来れば巻き戻ったことで、何かが変わってライトがあんな怪我をすることもなく、記憶喪失などにならなければ一番いいなと思っていた。


アノンは悩む。

ジュノンに話すと、ミネリタのことも話さなければならなくなるかもしれない。

自分が死んだあと自分の妻が、自身で産んだ子よりも他の子を優遇したと聞けば、きっと傷つくだろうと思えた。

アノンは考えて、やはりまだ伝えるのは早いと思った。

だがいつかは話さないといけないことも理解していた。



 ◇◇◇



 アノンの7歳の誕生日

 子爵家にお祝いに来たのは、母親に連れられてきたルートだった。そして分かったのは、この時来たのはルートだけではなく、ルートの兄妹も一緒だった。

 アノンはすっかり忘れていたが、きっと前の時も初めて会ったのはこの日なのだと思えた。


「初めましてアリエリーノちゃん。私もアノンちゃんと呼んでもいいかしら?」


「はじめまして、はうけんはくしゃくふじん」


 アノンが習ったばかりの挨拶をすると、ハウケン伯爵夫人は破顔した。


「この子はルート、アノンちゃんの一つ上なの。仲良くしてあげてね」


「ルートでっす!」


 ルートはふわふわのライトブラウンの髪で、濃いめの青い瞳をキラキラと輝かせて元気よく挨拶をした。

 それがやっぱりアノンには懐かしくて、涙が溢れそうになるのを堪えていたら、口がへの字になっていたようだ。

 アノンのその表情を、ルートはどう受け止めていいのか分からず、ただ困惑するのだった。


 この場でアノンの気持ちがわかるのは、きっと後ろに控えるユナだけだっただろう。


 そして、この7歳の誕生日に9歳の時に起こった悲劇の片鱗を、アノンは知ったのだ。

 それは前の時には、気付くはずがなかったのだ。まさかその後に、父が亡くなるなんて思っていなかったのだから。


 ルートやルートの兄妹と子爵家の中でかくれんぼをしていた時、アノンは大人たちがいた談話室に隠れた。

 そこに居たのは、アノンの両親とルートの両親。そしてロードとアントンもいた。

 子ども達がかくれんぼをしている事は、大人達は知っていたから、アノンが談話室に隠れたのも、その場にいた皆が知っていた。


 談話室に置いていた大きな壺の後ろに、アノンは息を潜めて隠れた。

 その時の鬼はルートの兄だった。


 アノンはこのかくれんぼを覚えていた。

 前の時もここに隠れたのを思い出して、またここへ来たのだが、すっかり忘れていた事を思い出した時、別の事も思い出した。

 この日ジュノンがミネリタを皆の前で激しく叱責したのだ。

 ジュノンが何を怒っていたのか知りたくて、アノンは同じ所に隠れることにした。


 そしてミネリタのマチルダへの興味が、この時からだったことを知るのだった。






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