アニメーター失踪届け(下)
「身躱しの加護!」
「錐揉み!!」
ネークのバフとダクセンの拳闘技術で一体ずつ確実に処理。
「初級攻撃魔法・岩塊」
ヴァンリは遠距離攻撃で他の敵を足止めする。
即席にしてはまとまりのある戦術で一行は順調にダンジョンの中を進んでいた。
「意外と大したことないのね。このゴブリン」
「そりゃあダンベルゴブリンの5キロは村の近くにも出るしさ。ダンジョンだからって特別強くなったりはしないでしょ」
「俺たちの目的地の3階層宝部屋付近では20キロ級も出るぞ」
初めてのダンジョン探索が思いの外、順調だから余裕の出て来た二人にダクセンは釘を刺した。
年上のベテラン風冒険者に窘められて、初心者の二人はシュンと縮こまる。
こういった相手に対して上手くコミュニケーションが取れないのはダクセンの悪い癖だった。
どうしても騎士団時代の厳しい縦社会の対応が抜けないからか人当たりの調整が苦手である。
そうして場を和ませるためにダクセンは話題を膨らませる事にした。
「ダンベルゴブリンの最大値を知っているか?」
「村の近くで100キロ超級が出て討伐隊が編成されたことがありますけど・・・」
顔を見合わせた二人の内、ネークがおずおずといった具合で答えた。
「そうだな。ダンジョンの外だとその辺りで成長限界となる。
しかし、ダンジョン内では10階層よりも下で300キロのダンベルを振り回す個体が確認された事もあるんだ」
その返答に初心者は驚きのリアクションをした。
ダンベルゴブリンは己の強さの誇示の為、ダンベルを持ち歩きそれを武器として戦うモンスターだ。
先ほど戦闘したように5キロの小さなダンベルを持つものから数百キロ級のダンベルを振り回す個体まで強さの幅はかなり広く、100キロ超級になると個人での撃破は難しく討伐隊を組まれる事が多い。
魔法こそは使わないが膂力と体力が扱う重さによって比例していく種族であり、
それ故に何キロのダンベルゴブリンを討伐した事があるかについて、冒険者の強さの簡単な指標とする事が出来るのだ。
「流石にこのダンジョンの3階まででそんな化け物に出くわす事はないが、ダンジョンの中は何が起こるか分からない。
気を引き締め過ぎる、準備をし過ぎるという事はないんだ」
初心者の二人は改めて緊張感のある返事をした。
ダンジョンの中はその階で一番強い生命体に適した環境へと変わる。
3階までは基本的に出入りが激しくとも人間が支配するエリアであり、比較的に移動も楽で地図も用意されている。
とはいってもダンジョンも成長しているので必ずしも安全という訳ではない。
「ネーク!ネーック!!!こっち!!」
後ろにいた筈のヴァンリが気が着くと数十メートル後方にいた。
ネークを呼ぶ声が反響する。
「ヴァンリ!離れたらダメだよ!!」
ダクセンとネークが振り返るとヴァンリは壁の方を凝視していた。
「ネークの言う通りだ。何を見付けたか分からんが早くこっちに来るんだ」
「この壁!何かおかしいのよ!裏に空間がありそうなの!!」
そう言って壁を触ったり、叩いたりしてみる。
「そんな地図にはないけどな・・・」
「本当か?それならお手柄かも知れねぇな」
壁の前で合流したダクセンは少し考え込んだ。
隠し部屋というのはダンジョンが成長する際に出来るもので、多くは宝箱等がある。
まだ漁られていない宝箱には希少な宝がある可能性が高い。
しかし、もし罠があった場合、パーティに盗賊がいない為対応が出来ない・・・。
「よし、ヴァンリ。岩魔法で壁を壊してみよう」
ダクセンは家賃の分の働きをしなければならないし、ここ初心者も出入りしているダンジョンの2階層だ。
まさか命を脅かす程のトラップが発動するなんてないだろう。
「初級攻撃魔法・岩砕!」
ヴァンリは魔力を集中させた杖の先端で壁を叩く。
岩で出来た壁に移動した魔力が伝達して亀裂を作る。
ガラガラと音を立てて崩れた壁の向こうにはやはり空間があった。
「すごいよ!ヴァンリ!」
警戒心もなく中に入ったネークはその部屋の中心に置かれた宝箱へ駈け寄った。
ダクセンとヴァンリも中へ入り見回した。
一つの宝箱が置かれた10m四方の部屋だった。
「開けてもいいですよね!」
宝箱も見た限りはトラップもなさそうだ。
「ああ、これはネークとヴァンリ二人が見つけた初めての宝箱だからな。
でも中身はパーティで山分けするのがルールだぜ」
「分かってます!ほらヴァンリ一緒に開けるよ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
駈け寄ったヴァンリとネークは並んで宝箱を開けようとした。
「何・・これ・・」
「硬いわね・・・!」
二人で力を入れるが宝箱はビクともしない。
「ぐっ・・!!!」
「あぁ!もう面倒くさいわ!吹き飛ばすから退きなさい!!」
早々に諦めて杖を構えたヴァンリが距離を取る。
「初級攻撃魔法」
詠唱を唱えると同時に床に円状の文様が重なって浮かび上がる。
ダクセンがその事に気が付いた瞬間にはもう遅かった。
「待!!!!」
「岩塊!!」
ヴァンリの魔法の発動と合わせて、その魔力を使い部屋に刻まれた魔法が発動した。
床の魔法陣が眩く光った。
一同を包んだ光が収まった時、ゆっくりと目を開けるとそこは今までいた場所ではなかった。
「ここは?」
「どこなの?」
辺りを見渡しながら呟くネークとヴァンリに対して、ダクセンはぽつりと漏らす。
「空間転移魔法の罠・・・」
初心者でも、どうやらまずい事になったみたいだという事だけは空気で分かった。
あけましておめでとうございます。




